【開催報告】7/13 NPOと行政の対話フォーラム’16

2016年7月13日(水)、かながわ県民センターにて、「日本NPOセンター設立20周年記念事業 NPOと行政の対話フォーラム’16 市民参加で地域を変える~ともに考える「地方創生」~」を開催しました。その概要をご紹介します。今回は、全国24都道府県から65名の方にご参加いただきました。改めまして、心より御礼を申し上げます。

2017年度は、7/14(金)に同じくかながわ県民センターにて開催する予定です。詳細は、改めてご案内いたします。ぜひご予定ください。

【基調鼎談】地域の力を生かす「地方創生」

東京都豊島区長の高野之夫さん、富山県南砺市長の田中幹夫さんをお招きし、当センター副代表理事の萩原なつ子を交えた3者鼎談で、フォーラムを開始しました。

Whole_20160713まず、南砺市の田中市長から、南砺市のまちづくりと市民の参加についてご紹介いただきました。「南砺市まちづくり基本条例」の策定において、まちづくりの基本原則や仕組みを決めるプロセスに市民が参加している事例とともに、地方創生の面では、「小さな循環による地域デザイン」(自然との共生による地域資源を活かした持続可能な循環型社会の構築)を基本理念に掲げる「南砺市エコビレッジ構想」についてお話をいただきました。また、豊島区の高野区長からは、危機的な財政状況の中、既存の公共施設の廃止と再編と行い、新たに「区民ひろば」をつくり、住民主体の自主運営化を進めたお話をいただきました。
続いて、市民と行政職員の、一人一人の意識と気持ちを変えていく取り組みを教えていただきました。南砺市では、市民と行政が共に住民のニーズを満たしていく形の地域にするために、市長自ら塾長となり、地域リーダーが育つ場を作っていきました。行政職員には、「どこを向いて仕事をするのか、もう一度みんなで考えよう」と呼びかけ、住民が集まる会議にも職員が参加しパイプ役となっていきました。
さらに、豊島区長からは「恥ずかしいと思うことも含めて情報を出すことで住民が納得するのが大切である」という情報公開の効果についてのお話がありました。

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最後に、お二人からメッセージをいただきました。

田中市長:まちづくりの主体は市民です。大きな仕事をやる時には、間違いなく市民と一緒にやるしかありません。行政がやってくださいと伝えて進むものではなく、これからの自治は市民と一緒にやらないとできないものと考えています。

高野区長:「消滅可能性都市」に象徴される課題に対応するために、女性の声を活かしていきます。もう1つ大事なことは、地方との共生です。地方が衰退すると都市も衰退してしまう。人口を増やそうとして、人を取り合いするのではなく、どう地方とタッグを組んでいけるかを、一緒に考えていきたい。ピンチだからこそ知恵が生まれるチャンスだと思っています。

(参加者のアンケートから)
・当県にも多くの消滅可能性都市があり、政策が問われているところなので個別の自治体の首長のお話を聞けて良かったです。(行政)
・行政がどのように市民とともに歩む「協働」を実現したのか、ピンチを乗り越えたのか、そのプロセスを学んだ。改革するうえでリーダーは非常に重要であることがわかった。(行政)
・「どこを向いて仕事をしているのか」という言葉が印象的でした。何をするにも自分の立場をいろんな立場に置き換えて考えていくことが大切だと感じました。(非営利組織)

【鼎談から分科会へ】

当センター代表理事の早瀬昇が、基調鼎談を受けて、分科会のテーマ設定との関わりなどについて解説をしました。
当フォーラム全体のキーワードの「参加」は市民を元気にすること、地域に支え合いを生み出すこと、自治力を高めること、市民の多彩な特性を活かすことを紹介し、午後の分科会の「人口減少」「見守り」「困窮者問題」などのテーマを「参加」で読み解くためのヒントを提示しました。
また、運動・栄養とともに、社会参加が加わると、死亡率が下がるというデータなどの紹介をしました。

【分科会】

分科会は、「ひと」「まち」「くらし」の3つに分かれて、それぞれの切り口から、「市民参加」について考えました。

分科会1 「ひと」と市民参加~ひとを呼び寄せ、住みたくなる地域づくりとは~

■登壇者
大島 誠さん
[くびき野NPOサポートセンター 理事](新潟県上越市)
佐々木 信秋さん
[SAVE TAKATA 代表理事](岩手県陸前高田市)

■聞き手
田尻 佳史
[日本NPOセンター常務理事]

■論点
・地域資源を生かした魅力的で持続可能なまちづくりとは
・NPOと行政、企業など多様な主体が連携するために必要なこととは

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SAVE TAKATA代表理事の佐々木信秋さんからは、農業の担い手不足という課題と、若年無業者(ニート)の課題の双方に取り組む「米崎りんご」のプロジェクトを具体例として発表がありました。プロジェクトのターゲットを若年無業者(ニート)とした理由は、1. 社会参加につまずいている人を受け入れることによる「他との差別化」2. ニートが自立することによる「社会への還元」3. しがらみのない地域に来ることで「頑張りやすい」ことだそうです。就農へのハードルをさげ、地域で職を生み出す取り組みとして「半農×半ICT」、家やコミュニティという一団体では解決が困難な課題解決のためには、地域に関る人全員が「市民」として、皆でビジョンを共有することの大切さや、地域内外の人がともに関わることの重要性が挙げられました。
くびき野NPOサポートセンター理事の大島誠さんからは、地域でなくなったら困る企業、地域に欲しい企業の運営を通した、人口減少、高齢化、労働力不足という全国共通の課題に対する取り組みの報告がなされました。仕事や学業に励みたいと思う人は都会に流出してしまい、そのことにより地域のリーダーや活動する市民が減少し、頑張っても地域が変わらないことによる情熱の減少、あきらめ感、行政依存の増大と負のサイクルに陥りがちになるとのことです。そうならないためには希望と自信の回復、地域資源の掘り起こしが大切であり、人を呼ぶための明確な目的が必要であることが挙げられました。

お二方の発表に対して、参加者からは50件を超える質問がよせられ、関心の高さが現れていました。
まとめ(今後行政に期待すること)として、
・個人だけではなく、さまざまな団体、機関(セクター)が関わることの大切さ。
・「よびこむ」「巻き込む」ことで地域の魅力が可視化される。
・定着化のためには、住民参画のしかけが必要。
・目利きの力(頑張っている組織をみつける/外から見た姿と内側の姿の両方を見る)
・地域を越える力(「わがマチ」のみでは解決できない)を持ち、共生する自治体に。
・地元の店を利用して日々の生活をして欲しい。そのことにより、地域で生活をかけて頑張っている人の感覚がわかってくる。
などが挙げられました。

(参加者のアンケートから)
・佐々木さんのお話に特に興味をもちました。今後、どれくらい移住者が出るか、良い結果が出ればと思います。また、大島さんの「地域でやっかいなことが魅力になる」という名言は響きました。(行政)
・2団体とも地域が衰退する中でその地域の資源を活用し、地域に人を呼ぶという取り組みをされている。「地方」で抱える課題を解決する上での先駆的な事例であると思う。行政は「理解と協力」することが大切ということが印象的であった。(行政)
・地域づくりのリーダー像として大島さんと佐々木さんに共通な部分を感じました。発達障害やひきこもりについては、身近にそのような人がいるということもあり、社会全体で考え、地域に生かす形で解決しようという方向性に感動しました。(非営利組織)

分科会2 「まち」と市民参加~まちをあげて、見守るネットワークをどのように作るか~

■登壇者
井岡 仁志さん
[高島市社会福祉協議会 事務局長](滋賀県高島市)
鈴木 秀洋さん
[日本大学危機管理学部 准教授・前文京区子ども家庭支援センター所長](東京都文京区)

■聞き手
吉田 建治
[日本NPOセンター事務局スタッフ]

■論点
・弱者を見守るネットワークをどう構築するか
・ネットワークにおけるNPOと行政の役割とは

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→登壇者の鈴木さん(左)、井岡さん(右)

分科会2は「まちと市民参加」をテーマに、さまざまな課題を抱える人々を見守る地域を、市民参加でどのようにつくるかについて、行政と民間それぞれの立場から2つの事例紹介、参加者同士のワークを通して議論を深めました。
冒頭、民間の立場から滋賀県の高島市社会福祉協議会の井岡仁志さんが、高島市で、自治会を中心として作られた高齢者見守りネットワークについて紹介しました。この活動は、区・自治会などがそれぞれで行ってきた見守り活動をひとつのネットワークとしてつなげ、住民の気付きを大切にして、疑問や違和感を解消するサイクルをつくってきた取り組みです。実際に浜分区という地区では見守り活動から、コミュニティカフェや専門職と連携した認知症の徘徊者保護訓練、個別訪問などに活動が広がっています。井岡さんには、このネットワークづくりにおいて、大切にしてきたポイントを3点挙げていただきました。
(1)自治会長など地域のリーダーたちの合意を得て、地域の組織に参加してもらうことで地域ぐるみの活動にすること。
(2)見守りの対象は限定せずに、参加する住民自身が「気になる」人を見守る活動とすること。
(3)見守り活動に参加する住民同士が集まる会議を定期的に開催。専門家も招いて活動を次の展開につなげること。
続いて、行政の立場から日本大学の鈴木秀洋さんが、東京都の「文京区子どもおせっかい地域ネットワーク」について紹介しました。このネットワークは、居所不明の子どもの死亡事件を契機に、文京区の子どもを地域で見守るための仕組みとしてつくられました。日常から子どもや家庭と接する機会のある郵便局や新聞販売店、水道局、子育て支援NPOなどと協力して、個人情報保護の協定を結んだうえで情報提供を行える環境を整えました。鈴木さんには、行政の立場から地域で見守り活動をつくるためのポイントを挙げていただきました。
(1)行政は目の前の課題の現状を徹底的に調べること。
(2)行政ができること、できないことを認識や前例ではなく法律や原理まで遡って明確にすること。
(3)上記を市民や協力を要請する個人、団体に説明、理解を求めること。
事例報告を受けてのワーク、意見交換では「見守り活動を担う人材の育成や若い世代の参加の方法」「行政ができること/できないことを市民に理解してもらう方法」など参加者のみなさんが普段活動する地域での悩みも含めて、終了時間を超えて具体的な意見交換が行われました。
最後に聞き手の吉田から分科会のポイントとして、井岡さんの「”気付き”を大切にする姿勢」、鈴木さんの「”疑問”を明らかにする姿勢」を挙げ、「民間・行政が互いの強みを生かして、市民参加を促す姿勢を持つことが重要である」とまとめました。

(参加者のアンケートから)
・課題解決にあたり、民間と行政との情熱の差を感じる。課長が変わると対応が変わる。それについてもお話しを伺いたかった。(行政)
・当事者意識が大事という鈴木さんの言葉が印象に残った(非営利組織)。

分科会3 「くらし」と市民参加~地域に住む人が安心して暮らしていくために、どのような支援が求められるか~

■登壇者
栗林 知絵子さん
[豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 理事長](東京都豊島区)
佐久間 裕章さん
[自立支援センターふるさとの会 代表理事](東京都台東区)

■聞き手
坂口 和隆
[日本NPOセンター事務局次長]

■論点
・生活に困窮している人を地域がどのように支援できるか
・そのような支援体制において、NPOや行政、その他多様なセクターが果たす役割とは

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最初に、豊島区で活動されている栗林さんから地域での子どもの貧困の取り組みについて紹介いただきました。プレーパークに来る子どもから貧困が見つかり、無料学習支援、子ども食堂を開始し、今では区内30カ所に広がっています。大人と出会う場所を点在化し、子どもが頼る力を高めることで、将来に渡って困窮者を出さない予防の活動です。
地域で変化に気づくのは市民にできること。ソーシャルワーカー、弁護士、メンタルサポートの専門家などへつなぐには、行政や社協の力が重要です。また、行政から伝えてもらうことで、既存の地域組織や市民から理解を得られることを期待しています。
聞き手の坂口は、「エンパワメント」をキーワードに、住民が力をつけることによるセーフティネットの充実と、子どもたちの「受援力」をのばすことが重要であるとまとめました。
次に、自立支援センターふるさとの会の佐久間さんから、高齢者を中心とした生活困窮者の支援活動について紹介いただきました。身寄りがない、低所得、高齢、障害や持病など複数の困難を抱えた方を支援するなかで、孤独死の課題に直面し、利用者の互助、仲間づくりをして、変化が見つかり対応できるようになりました。また、利用者のための炊事や掃除など、サポートが必要な若年層の雇用を「ケアつき就労」として創出。役割ができることで、自信や働く意欲が生まれることが分かりました。今後はテーマごとに分けずに、地域で包括的に取組む時代と考えています。行政には、基礎自治体レベルで状況に合わせて判断できるようになること、民間の資源を地域の資源として活用することを期待している、としました。
聞き手の坂口は、支援する側とされる側の相互扶助がキーワードであり、住民が困ったときに支える、支えてもらえる地域は、誰にとっても安心して暮らせるいい町になるとまとめました。

(参加者のアンケートから)
・関心の高まっている子ども食堂を先進的にやられている方のお話を聞けてよかったです。また、タイプの違うお二方のお話を聞けて面白かったです。(行政)
・発表いただいた実践事例は、いずれも地域に根差した活動であり、参考になりました。(行政)

【クロージング】

Closing1_20160713クロージングでは、各分科会の聞き手から、それぞれの会の報告と分科会から浮かんできたNPO・行政の役割についての考察、分科会登壇者からは来場者へのメッセージが語られました。

(NPO・行政の役割について)
・非営利-営利の枠を超えた発想が必要な時期にきている。営利組織も地域に根付いていないと成り立たない。
・行政は、民間の動きに対して理解・協力する姿勢が必要。
・行政には制度としての対応が必要であり、民間には制度途上の課題、制度の狭間にいる人への取り組みが大切。
・行政の取り組みも民間の力を借りないと成り立たない。互いの気付きの情報交換が重要。
・二者協働から多者協働へ(マルチステークホルダー)。
・ひとつのニーズから様々な事業が展開されていく。ニーズベースから事業を作るのはNPOの役割。行政に望むものは信用とつなぎ。

(登壇者メッセージ)
・大島さん:地域のリーダーは様々な相談事をうけている。相談疲れがあるのも事実だが、希望を見せることにより勇気がでる。行政の後押しは、希望を見せることにつながる。ぜひ応援を。
・佐々木さん:どの地域にも頑張っている人がいる。行政は頑張る人の応援団でいてほしい。応援するための目利き力をつけて、そして、隣に座って“対話”を。
・井岡さん:活動を通した出会い、気付きによって人は育っていく。「危機感の共有」「夢を語る」の両方が重要。当事者性を忘れずに。
・鈴木さん:課題に対してどう向き合いたいか。立場を変えてみることが大切。自分で検証するだけでも見え方が変わる。当事者の視点を。出会う人を増やすことで切り口も増やせる。
・栗林さん:貧困は見えない課題だけに理解が広がりづらい。接点のない人と対話の場面をつくり、活動に巻き込んでいくことが大切。地域の取り組みに外部からの「いいね」があることで、地元の人が注目できる。楽しんで取り組んで。
・佐久間さん:「地域に住む人が安心して暮らせるために」評価の尺度を変える必要を感じる。給付金も必要だが、支えあいのしくみの評価(数量化しづらい)が必要。

Closing2_20160713(参加者のアンケートから)
・他の分科会でどのような説明があったのか知れたので良かったです。(行政)
・3分科会とも目標は同じであったと思う。協働の人材、情報共有、住民参加でまちをつくっていく。(行政)
・気づきを如何にひろうか、気づきのアンテナを如何に高くするか。(非営利組織)
・NPO側から行政に寄せる期待と、行政との協働の可能性の大きさを実感しました。(非営利組織)

(関連書籍)
「知っておきたいNPOのこと」シリーズや会計基準に関する書籍など、フォーラム会場で販売しておりました書籍は、本サイトの「取扱い書籍のご案内」からご注文できます。ぜひご利用ください。

※アンケートからいただいたご感想は、読みやすさなどを考慮し、事務局が趣旨を変えない範囲で一部修文しています。