7月13日(金)、かながわ県民センターで毎年恒例の「NPOと行政の対話フォーラム ’18」を開催しました(主催:日本NPOセンター、協力:かながわ県民活動サポートセンター)。
今年はNPO法の成立/施行から20周年。NPOは地域社会にとって無くてはならない存在として認識されるようになりました。この間、全国各地にNPO支援センターが設立され、NPOと行政の協働に対する理解も大きく進んだ一報で、NPOと行政では組織風土や運営方法が異なることから、認識の共有や対等性の確保などについての問題や課題も少なくありません。
多くの地方自治体では、協働を推進するための条例や規則、マニュアルやルールブックなどの作成を行ってきましたが、想定したとおりには進まないケースも散見されており、NPOと行政の協働はルールがあるだけでは十分ではないと考えられます。
今回のフォーラムは、NPOと行政の協働の未来に向け、まだまだやるべきことはあるとの認識のもとに実施し、「次の一手」を参加者の皆さんとともに考える貴重な機会となりました。当日の様子をレポートします。
鼎談 「協働の未来へ、次の一手を考える~出会いと共振による地域づくり~」
■登壇者
相川 康子さん 特定非営利活動法人NPO政策研究所 専務理事
青海 康男さん 特定非営利活動法人いしかわ市民活動ネットワーキングセンター 代表理事
萩原 なつ子 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 代表理事(聞き手)
午前中の鼎談では、これまでのNPOと行政の協働についての施策を整理し、協働の実践の中で起きている問題や課題を確認。協働の未来に向けて、次の一手についての考え方や方向性などが話し合われました。
まず青海さんから、協働を理解してもらうためにどのようなことをしてきたのか、市民や市民協働などの言葉がどのように使われてきたのか、協働・協力・参加の相違点などについて課題提起がありました。続いて相川さんから、市民社会改革は地方分権と連動できていたのか?官から民へという流れの弊害を防ぐ手立てをしてきたのか?そしてコミュニティの担い手不足にどう取り組むかなどの課題が提起されました。
お二人の話を受け、萩原から「次の一手」の方向性について聞きました。相川さんからは協働に関する「制度」と「人材」の確保、職員研修や専門職の確保、人材交流や情報交流の必要性、青海さんからは、人間としての関係を作っていくことの重要性、事業としての協働と、協働がもたらす市民社会のあり方を分けて考えていかないといけないというコメントがありました。
他にも、さまざまな意見が交わされましたが、ここではキーワードを幾つかご紹介します。
- 多様な人が参画する参加のチャネルをつくり、それを大切にすること。
- 協働は、市民が公(公共)を学ぶことができることが重要な点。
- NPOとの協働事業は、行政の縦割りでは対応できない。行政内部の協働こそ必要。
- 市民が必要なことを、市民同士がつながりながら作っていくコーディネーションの力。
かながわ県民活動サポートセンター 館内ツアー
ランチ休憩の時間帯には「かながわ県民活動サポートセンター」の職員の皆さんに館内を案内していただくツアーを実施しました。同センターは、ボランタリー活動を総合的に支援する施設として1996年4月に全国に先駆けて開設。その後の全国の公設NPO支援施設のモデルになったものです。
第1セッション「NPO支援センターの協働コーディネート機能を考える」
登壇者
手塚 明美さん 認定特定非営利活動法人藤沢市民活動推進機構 副理事長・事務局長
竹内 理さん 京都府府民力推進課主事
吉田 建治 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 事務局長(聞き手)
このセッションでは、まず手塚さんからプレゼンテーションがありました。NPO支援施設の協働コーディネーターの役割として行政から依頼を受け協働事業の企画調整を行っていることや、企業からの団体と連携したいという相談をコーディネートしている事例などが報告されました。次に、竹内さんから、NPOパートナーシップセンターの運営と協働コーディネーターの役割について、事例としてコーディネート事業のほか協働に関する講演会や団体同士の交流会の企画、一方通行にならない関係性を作るように意識していることなどについて発表していただきました。
その後、お二人のプレゼンテーションを受けて参加者がテーブルごとに意見交換、そこで出た幾つかの質問についてお二人から回答をいただきました。以下は「コーディネートの際に行政側とNPO側に求めることは?」という質問に対する回答です。
手塚さん「団体は話を聞いてくれると嬉しいもの。だから、まずは相手を知るためにも話を聞いて欲しい。話を理解したうえで、行政としてできること・できないことをとはっきりと言ってほしい。できないからと、口を濁すと逆効果。」
竹内さん「行政のルールを知ってもらいたい。行政には行政のルールがあって自由度は少ない。年度の予算が決まっているので、提案されても対応できないことも多い。また、団体が何をやっているか分からないこともあるので、団体の活動内容を意識的に伝える努力をしてほしい。」
最後に、協働コーディネーターの機能についてコメントがありました。
竹内さん: コーディネートは「前向き・進んでいく」というイメージがあると思うが、事業が進むことが団体にとって最善とは限らない。つなぐことも大事だが、団体の思いを汲み取って、相手に「進まない」という選択肢を提示することもコーディネーターの役割だと思う。
手塚さん:今まで、他セクターとの連携に関しては相当型破りなことをやってきた。型破りは、型を知ってないとできないが、行政・NPO・団体にはそれぞれの“型”がある。まずは「型を知り、守るべきところは守る」ことが大切。その後、型が破れる場所を見つけると、協働の新しい風が吹き込めるのかなと思っている。
第2セッション「協働施策のリノベーションを考える」
浦本 和則さん 特定非営利活動法人Code for Chiba 理事長、株式会社和聡 代表取締役
山本 雅子さん 横浜市市民局市民協働部市民活動支援課 担当係長
上田 英司 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 事務局次長(聞き手)
このセッションでは「協働施策のリノベーションを考える」と題して、行政とNPOそれぞれの視点からの協働のとらえ方についてお話を伺い、参加者がグループ討議を行いました。
山本さんからは、横浜市の協働政策の概要と、課題についてお話しいただきました。市民提案への支援や協働契約についての説明が望まれている中で、協働事業の提案支援モデル事業と協働契約ハンドブックの策定が進めてきたが、そうした行政側の取り組み通じて協働提案の件数も増えてきたとのことです。
浦本さんからは、これまでの協働の取り組みによる知見から、市民側と行政側のあるべき協働の未来についてお話しいただきました。オープンデータを活用した取り組みを中心として、地域の課題解決に役立つツールを普及するためのワークショップ、街の魅力を競い合うCivic Power Battleなどの取り組みについて紹介がありました。具体的な事例として、保育園マップとお祭りデータセンターの取り組みがあるものの、行政職員との活動時間や連絡手段のズレなどの課題があることも指摘されました。
グループ討議では、質問をグループごとにまとめてお二人に質問。協働しやすいNPOとは?担当課の意識はどうか?協働事例にはどのような成果があるか?などなど、活発な質疑応答が行われました。
最後に、今回のテーマ「協働の未来へ次の一手を」という点から、参加者同士がアイデア出しを行い、団体と関連部署が知り合う機会づくりや、行政が保持する情報のデータベース化などが提案されました。
レクチャーⅠ「NPO法20周年に際し、改めてNPO法の意味と意義を考える」
講師
早瀬 昇 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 理事
このレクチャーでは、NPO法の成立に至る経緯やそれぞれの非営利法人の性質や背景となる制度上の違いなどについて具体的な事例を用いて解説しました。
■主な内容
- 非営利法人制度の起源
- 市民活動促進法の検討
- 特定非営利活動促進法の特徴
- NPO法人の実情と公益法人制度改革
- NPO法成立の意義と課題
押さえる基本として、まず、NPO法は市民を作ることを目的としていること。各種の法人は、許可>認可>認証>届出といった手続きの違いに所管する行政の裁量度が現れること。所管する官庁によって縦割りで管理されていた市民活動団体に共通の制度基盤が必要であったこと。そして市民活動団体に関する法人制度の検討に際しては、市民が主体となりながらも議員と連携しその基盤を整備した経緯があったことなど、NPO法成立に至る経緯や法律の特徴が語られ、当時の空気感なども伝えられました。また、今後の課題として近年解散する法人が増えており、法人数の伸びが低下していることなどが挙げられました。
レクチャーⅡ「NPOと地方自治体にとってのSDGsとは」
講師
新田 英理子 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 特別研究員
■主な内容
- これまでの社会の中のNPO
- なぜ今SDGsなのか
- SDGsが取り組む「世界・日本の激変」とは
- SDGsの精神「誰ひとり取り残さない」
- 政府セクターの取り組み
- 日本の実施指針における NPOの役割
- 企業の取り組み
- NPO/NGOの取り組み
- 動き出した地域、SDGsの活用事例
冒頭で、SDGsが設定された経緯とその背景となる現在の世界の情勢、SDGsの意義について解説し、参加者のSDGsに対する理解を深めた後、政府・企業・NPO/NGO・地域での取り組みや活用事例を紹介しました。SDGsは多くのセクターが「共通言語」として設定できる目標であり、社会にある問題の全体像を掴むために有益であること、地域で活動しながらもSDGsの目標と結びつけることで世界とのつながりが意識できることなど、数々のメリットがあることなどを解説しました。
情報交換会
全プログラムの最後に、参加者全員で情報交換会を実施しました。トークダンス方式でそれぞれの取り組み事例の話やこれからの意気込みなどについて意見が熱く交わされ、予定した時間が足りなくなるほど活発な交流の場となりました。
「NPOと行政の対話フォーラム」は、来年も7月中旬に開催予定です。皆さんのご参加をお待ちしています。