2015年9月15日(火)午後1時より、都内会議室にて、フォーラム「日本における金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の確立に向けて:海外事例調査報告と日本における取り組みの紹介」を以下のとおり開催しましたので報告いたします。
本フォーラムは、2014年12月より日本NPOセンターが米国メットライフ財団の助成を得て実施している「日本における金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)プログラムの導入に関する調査」の一環として実施したものです。当日は、金融包摂に関心を持つ金融関係者、研究者、実務家等30名以上にご参加いただき、活発な意見交換が行われました。
プログラム
開会
・挨拶
今田克司(日本NPOセンター常務理事)
・メットライフ財団のファイナンシャル・インクルージョンへの取り組みについて
田代絢子(メットライフ生命CSRゼネラルマネージャー)
海外ヒアリング結果報告
・海外における金融包摂取り組み状況―ヒアリング調査報告-
小林立明(日本NPOセンター特別研究員)
・コメント
小関隆志(明治大学准教授)
日本の事例紹介
・地域購買生協「生活相談・貸付事業」について
上田正(日本生活協同組合連合会生活相談・貸付事業アドバイザー)
・自立のための生活経済教育について
陣内恭子(自立のための生活経済教育推進協議会代表理事)
総括討議
(各発表の概要については、配布資料をご参照ください。)
【配布資料】(すべてPDF)
・メットライフ財団ファイナンシャル・インクルージョン事業概要
・海外における金融包摂取り組み状況―ヒアリング調査報告―
・「日本における金融包摂の確立に向けて」コメント
・地域購買生協における生活相談・貸付事業
・自立のための生活経済教育の実践例紹介
主要論点
総括討議では、日本における金融包摂の可能性について参加者からご自身の活動を踏まえたさまざまな意見が出されました。主な論点は以下のとおりです。
▼金融包摂の政策アジェンダ化
・2000年代初めには多重債務者問題が社会的な注目を集めた。現在は貸金業法改正や利息制限法の導入により一定程度問題が解決されたが、貸金業の利息上限をあげようという揺り戻しが起きつつある。一方で、貧困・格差の問題は広がっており、金融包摂についても、政策アジェンダ化が必要。
▼金融包摂を横串にした各分野の事例共有
・金融教育に関しては、金融広報中央委員会が今まで様々な事業を推進してきている。また、事例紹介で取り上げられた海外の事例の幾つかは、たとえば、宝くじと組み合わせた貯蓄奨励や、母子家庭向けの融資など、各地の金融機関で先行事例がある。日本で金融包摂を進めていくためには、このような事例を「金融包摂」を軸に横串でまとめ、それぞれの分野で進められている実践を共有していくことが重要。
▼日本の社会保障制度内への位置づけと社会包摂への配慮
・日本において金融包摂を考える際には、生活福祉資金貸付制度も含めて、日本の社会保障制度を通じた社会包摂という観点から考える必要がある。
・海外事例を参考にしつつも、日本での展開に当たっては日本に固有のニーズを踏まえる必要がある。たとえば、米国の政府プリペイド・カードは大阪で試行されたが利用率はきわめて低かった。
・金融排除される層は、依存症などさまざまな問題を抱えている人が多い。このため、金融包摂に当たっては、このような問題に対するサポートも含めた社会包摂をあわせて考える必要がある。
▼公的支援の可能性
・金融包摂に対する公的支援をどうするか。日本の場合、零細事業向けの資金提供については公的支援があるが、個人を対象とした資金提供は生活福祉資金貸付を除いて存在しない。英国が2000年代に実施したように、金融包摂基金を政府が設立し、これを通じて金融機関の貧困層向け個人ローンを支援するということは考えられないだろうか。
・多重債務問題が問題となっていた際には、たとえば福岡県がグリーンコープに補助金を出してセイフティネット貸付を行ったという事例がある。現在、生協が進めている家計相談・生活貸付事業についても、政府からの支援は得られないのか。
▼日本における金融包摂の展開に向けて
・ネットカフェ難民の支援などでは、スマートフォンなど、モバイル技術の活用の余地はたくさんあるのではないか。
・マイクロファイナンスに対し、日本では、返済率が低いのではないかとか、コミュニティを形成すれば本当にうまくいくのか、等の疑念がまだ強い。こうした否定的なイメージを打破するためには、まずきちんとしたビジネスモデルを作る必要がある。丁寧に支援を行うためにはそれなりのスタッフを配置する必要があるが、問題はこの人件費コストに見合うビジネスモデルをいかに構築するかという点。
・移民や難民に対する金融包摂も必要。彼らは、生活能力があるから、きちんとした支援を行えば十分に成果が上がるのではないか。