【報告】交流・学び合いの場「ともしび・ひみつゼミ」を初開講

課題や活動が多様化する中、さらなる市民社会の創出へ向けて

 近年は、一般社団法人をはじめとした公益法人制度で活動する団体やテーマ型のネットワーク組織、あるいは企業も市民社会のより積極的な担い手として期待されるようになり、取り組む課題や活動も多様化しています。
 一方、コロナ禍の影響も受け、ここ数年NPOでは地域や分野を超えた交流や学び合う機会が減少していました。さらに、内閣府『令和2年度 特定非営利活動法人に関する実態調査』によれば、62%の団体が「人材の確保や教育」を課題としており、限られたメンバーで奮闘するNPOも少なくありません。
 より良い明日へ向かって一人ひとりが自由に活動・参加でき、つながり、協力し合えることが市民社会の目指す姿であれば、さらなる市民社会の創出へ向け、あるいは共通する根底の構造的な社会課題に挑むには、垣根を越えて「横串」を通す新しい場づくりが必要だと考えました。そこで日本NPOセンターでは、東日本大震災復興支援のためにまとめられた「NPOを磨く15の力」を基にした講座や交流研修事業を線で結び、2023年度から新しいコミュニティ型の仲間づくりを行う事業について計画してきました。

ともしび・ひみつゼミの概要と特徴

 本事業はその先行事業として実施したもので、課題解決や価値創造に向けたNPO・市民活動の仲間づくりを行い、団体や活動に関する継続した交流・学び合いの場「ともしび・ひみつゼミ」を初めて開講しました。事業名の「ともしび」には、一人ひとりが社会の「」であり、この場がともに市民社会(Civil Society:シビル・ソサエティ)をつくる場になってほしいという願いを込めました。また、団体や活動をろげたい・なおしたい・(そのうえで)づけたい、そのような各局面に合わせ3つのゼミを開催し、その頭文字をとって「ひみつゼミ」としました。

 ゼミには全国からNPO・市民活動に関わる12名と日本NPOセンターのスタッフ3名の計15名がメンバーとして集まり、2023年11月から2024年3月にかけて月に1回程度、各ゼミを開講しました。
 主な特徴は、3つあります。まず、「活動や運営の中で行き詰まりを感じるなどの抽象的な課題感を対象にしたこと」です。例えば、中長期計画の立案や資金調達の方法など具体的なテーマを題材にした研修・講座は今では珍しくなくなりました。一方で、実際は課題感が曖昧な状態にある団体が多いことや、課題が明確だとしても背景に隠れた課題にこそ本質的なニーズがあることは、日本NPOセンターが実施する組織基盤強化事業における組織診断分析などからも明らかになっており、このゼミではそこに焦点を当てました。
 次に、「問いをつくり深めていく過程を大切にしたこと」です。ゼミは基本的に一方的な教授ではなく、メンバーが主体となって問題意識や活動の「もやもや」を持ち寄り、相互に意見を出し合う形で進行します。問いに対して、魔法のような教えや答えが用意されているわけではありません。メンバー同士の対話の中で探っていくことを重視しました。
 そして、「さまざまな課題を感じているメンバーを横につなぐゼミスタイルとしたこと」が最大の特徴です。地域や活動する分野が異なっていても同じような課題感を抱いていることに対する共感や、時にノウハウを共有し合い、励まし合うことによるエンパワメント機能を大切にしました。日本NPOセンターのスタッフも一つずつゼミに担当として参加し、一緒に悩み、一緒に語らうことを徹底しました。

半年間、全国のメンバー間の交流や議論を促す

 11月に、キックオフとして「NPOエンパワメント会議」を開催。メンバーのNPO/市民活動に関わったきっかけや今後の展望などを紹介し合い、ゼミの具体的なテーマや内容について話し合いを行いました。
 その結果、「ひろげるゼミ」は『市民や地域にどのように活動を広げていくか』をテーマとし、メンバーで一緒に文献講読やNPO出身の地方議員、アドボカシー・ロビイングを行うNPO実践者の話をうかがいながら、地域で施策提案を行うあり方や方法を議論していくことになりました。「みなおすゼミ」は、団体や活動を今一度みなおしたいと参加メンバーから一番人気。各メンバーから問題意識を共有しながら、それぞれのテーマや内容を深めていくことになりました。「つづけるゼミ」は、「全国から集まったメンバーだから全体でそれぞれの活動や普段話せない悩みなどを共有する交流の場が欲しい」という声から、全体での交流や議論の場とすることになりました。各回の概要は以下の通りです。

NPOエンパワメント会議【NPO・市民活動実践者のつどい】
2023年11月17日(金)13:30~17:00 ハイブリッド形式(Zoom + 日本NPOセンター会議室)
・「NPOの自分史と未来史」ストーリー / ゼミの具体的なテーマや内容の検討
ともしび・ひみつゼミ【継続した実践者向けの交流・学び合いの場】
ひろげるゼミ ゼミ生:5人みなおすゼミ ゼミ生:7人つづけるゼミ 全体交流・議論
2023年12月 4日(月)9:00~11:00 オンライン(Zoom)
・文献講読:市民の日本語 ・研究テーマの検討
2023年12月12日(火) 11:00~13:00 オンライン(Zoom)
・研究テーマの検討 (各自が持ち寄り議論)
2023年12月19日(火) 13:30~15:30 オンライン(Zoom)
・近況報告/各ゼミの進捗/ 参加者だけの交流タイム
2023年12月26日(火) 9:00~11:00 オンライン(Zoom)
・身近な議員の話を聴こう
2024年 1月 9日(火) 13:30~15:30 オンライン(Zoom)
・研究テーマの深掘り①
2024年 1月16日(火) 13:30~15:30 オンライン(Zoom)
・SNS活用/支援関係/人権
2024年 1月23日(火) 16:00~18:00 オンライン(Zoom)
・ロビー活動の話を聴こう
2024年 1月23日(火) 13:00~15:00 オンライン(Zoom)
・研究テーマの深掘り②
2024年 2月 6日(火) 12:30~14:30 オンライン(Zoom)
・メンター/予定管理/健康
2024年 2月13日(火) 9:00~11:00 オンライン(Zoom)
・研究テーマの深掘り①
2024年 2月 8日(木) 11:00~13:00 オンライン(Zoom)
・研究テーマの深掘り③
2024年 2月27日(火) 12:30~14:30 オンライン(Zoom)
・ゼミ生ルワンダ現地報告
2024年 3月 8日(金) 15:00~17:00 ハイブリッド形式
・研究テーマの深掘り②
2024年 3月 5日(火) 11:00~13:00 オンライン(Zoom)
・研究テーマの深掘り④
2024年 3月19日(火) 12:30~14:30 オンライン(Zoom)
・合宿/成果報告について
スプリングボードキャンプ 【成果報告】
2024年3月23日(土)~25日(月) ちがさき柳島キャンプ場
・1人30分程度の報告・議論 / ともしびタイム(焚火)/ 次に向けた決意表明

 そして、最後には成果報告の場としての合宿を実施しました。行事名のスプリングボードには『飛躍のきっかけとなるもの』という意味があり、ゼミと成果報告で終わるのではなく、一連の学び合いによって各メンバーがさらに飛躍していくきっかけになることを願って開催しました。

参加者の声

『このゼミに参加したことで前から考えていた活動をリベンジすることができ、地域で取り組みたかった活動がスタートできそうです。特にロビイングの重要性を学び市議会議員や、より多くの方と一緒にやろうと決めて成果がありました。ものすごく有益なゼミだったと思います』(神奈川県・2019年から活動)

『普段、同じ子ども支援界隈の人とは頻繁に会うことがあっても違う活動をされている方々と接する機会はこれまでほとんどありませんでした。それぞれ活動内容にもすごく興味があるし、立場を超えていろいろな方とつながり実現を目指す方向性が共通していて学びになりました。他にはない学びの場で、大事にしたいと取り組んできました』(鹿児島県・2016年から活動)

今後の展望

 2024年度は、ゼミに加えて地域や分野・セクターを超えてこれからの市民社会を考え、体系的に学ぶことのできる連続講座の開催を検討しています。年間を通じて継続的につながり学び合える場をつくることで、NPOが持続・発展的に活動できる環境を強化し、NPOの社会的基盤強化を通したさらなる市民社会の創出を目指します。

 本事業は多くの団体・人たちの参加・参画なくして成立させることができません。先行きの見通せない現代にみなさんの「灯」と、ともに市民社会をつくる場が必要です。ご理解とご協力、そしてご支援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。