東日本大震災現地NPO応援基金[特定助成] 「JT NPO応援プロジェクト」(第2期)第2回助成 選考結果について

助成先一覧 | 選考総評 |助成概要と選考理由 |

東日本大震災現地NPO応援基金[特定助成] 東日本大震災復興支援 JT NPO応援プロジェクト(第2期)第2回選考を行い、以下の通り決定いたしました。

助成先一覧

No. プロジェクト名/団体名 所在地 助成額
(単位:万円)
1 大学生の力を活かした被災地の小中高生と大人の学びあいによるコミュニティづくり事業
特定非営利活動法人 未来図書館
岩手県
盛岡市
290
2 被災した子どもたちに遊び場とイベント等を提供し、希望と笑顔を増やす事業
希望と笑顔のこすもす公園
岩手県
釜石市
187
3 「食がつないで食が創る」コミュニティ形成事業
特定非営利活動法人 とめタウンネット
宮城県
登米市
340
4 コミュニティカフェ・うめばたけ
特定非営利活動法人 まちの寄り合い所・うめばたけ
宮城県
石巻市
162
5 住めなくなった海辺の賑わいと暮らしの再生プロジェクト
荒浜再生を願う会
宮城県
仙台市
200
6 被災した障害者と家族の生活再建を応援するプロジェクト
特定非営利活動法人 ポラリス
宮城県
山元町
262
7 地域につなげ地域に根付く 井戸端ボトムアップ事業(略称:いどばたボトムPJ)
特定非営利活動法人 市民公益活動パートナーズ
福島県
福島市
300
8 分かち合い流通の確立―分断された原発避難区域から「繋がり」と「生きがい」創出―
特定非営利活動法人 がんばろう福島、農業者等の会
福島県
二本松市
500
9 原発被災者の若者コミュニティの創出と次世代育成及び地域文化継承事業
特定非営利活動法人 とみおか子ども未来ネットワーク
福島県
富岡町
400
10 空き家をDIYの教材として活用した地域コミュニティづくり
特定非営利活動法人 中之作プロジェクト
福島県
いわき市
325

*助成件数:10件 助成総額:2,966万円
*2017年2月までの応募について3,4,5,6月に選考し助成を決定した。
*助成期間は、2017年7月1日から2018年6月30日まで。

選考総評

選考委員長 大島 誠

 先日、仕事で久しぶりに仙台を訪ねました。会議までの時間、少々買い物があり駅前の大型商業施設に入りましたが、昨年と比べお客様の賑わい方に陰りがあるように感じました。また会議後、仙台一の歓楽街「国分町」で食事をしましたが、夜の賑わいも落ち着きを見せておりました。東日本大震災から6年が過ぎ、いわゆる「震災バブル」が終息してきたということでしょうか。
 しかし、申請書類を読み進めると、被災地の、そして避難地域の生活者にとって、震災はまだ現在進行形であると実感いたしました。いやそれ以上にこれからが「復興の本番」と言えるのでしょう。
 今回は64件の申請がありました。前回よりも25件も多い申請件数です。事務局による一次審査で39件に絞り、その上で5名の委員が応募資料を読み込み、書類審査で25件まで絞り込む。更に選考会を開催し熱い議論の末、14件を「助成候補」としてヒアリング対象に選びました。この14件へは総て事務局が現地へ足を運び、申請書類と現状に齟齬がないかを細かく確認させて頂きました。その報告をもとに、選考委員長である私が10件に対して助成を決定いたしました。
 選考は終始「公正さ」を重視するとともに、それぞれの思いを込めてお書き頂いた申請書に対しては真摯に向き合ったと自負しています。残念ながら今回は選考に漏れた団体も、次回是非またご応募頂くことを強く期待いたします。
 さて、助成決定がなされた個々のプロジェクトに対する講評は、選考委員の皆さんがコメントしてくださいますので、私は「第2期 第2回助成選考」を踏まえたうえで、申請内容全体を読み込み、気にかかったことを5点申し述べます。

①支援事業は本当に地域の人たちが必要としているのか、望んでいる事業なのか。
②住民だけでは解決が困難な課題に取り組む際、その支援事業の出口が見えているのか。
③支援事業がその地域全体の復興事業と良好な関係にあるのか。
④支援事業の中身や趣旨が、被災者の立場に立ったものから、次第に支援者にとって都合の良い内容や趣旨に変わって来ていないか。
⑤支援事業を生業としている支援者にとって、支援事業の終息・終了が被災者の生活基盤を不安定にするのではないか。

 本文の冒頭に述べましたように、被災地・避難地域にとって震災は現在進行形であることを十分に承知しながらも、支援の在り方も時間と共に変化していかなければならない必要性も感じています。活動内容についての議論はもちろんの事ですが、この点が本選考会で熱く議論されたポイントのひとつでありました。
 震災からのこれまでの時間の中で、被災地の「大多数」の皆さんに関係する状況は改善が進みつつあると思います。新しく創られた住宅や商店街、水産加工場、帰村に向けての準備などがメディアで報じられる度に「震災からの復興」が私たちに印象付けられ、震災は終息しつつあると思い込みます。
 しかし、平常時と同様に、少数者、弱者、発言力・発信力の弱い人たちが忘れ去られ、最後まで取り残されていきます。こうした状況下で今回助成が決定した10件は引き続きの課題解決に向けて取り組まれている案件です。小規模農業・高齢者・子ども・障がい者・空き家・新しいコミュニティ、いずれも社会的少数派の問題です。これらの問題が解決してこそ初めて「震災からの復興」を謳うことが出来るのでしょう。
 助成が決定した皆さんには限られた予算の中ではありますが、最高の成果を目指して取り組んでいただくようご期待申し上げます。また事務局としても、皆様の思いや活動が広く全国の皆様に伝わるよう、対応を検討して参ります。
 今後ともJT様からご提供いただける浄財が被災者の皆様と支援者の皆さんの双方の現在と未来に対して、より有効に活用されることを願ってやみません。

【選考委員】
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助成概要と選考理由

テーマ 大学生の力を活かした被災地の小中高生と大人の学びあいによるコミュニティづくり事業
団体名 特定非営利活動法人 未来図書館
代表者 理事長 古澤 眞作
助成額 290万円
選考理由  未来図書館は、岩手県で震災後の早い時期から復興人材育成のためキャリア教育支援の在り方に関する調査や、小中高生のキャリア教育支援を行ってきた団体である。
 本事業は、山田町、宮古市、大槌町で、地域で働く大人が小中高生に地域への想いや仕事について語り、多様な生き方や価値観を持つ大人と子どもが相互に学び合う「未来パスポート」プログラム、大人と大学生や中高生がコミュニティづくりについて語り合う「かだる」プログラムを実施するものである。
 未来パスポートは、NPOがコーディネーターとなり、授業を行う地域の大人、授業に参加する小中高生の子ども、NPOと一緒に授業を考える学校の先生が相互に学び合う機会を創り、コミュニティの教育力を高める先駆的なプログラムである。
 本事業を通じて、プログラムの運営に参加する大学生が継続的に関わり、大学生の成長にも寄与する仕組みが構築されるよう期待したい。

 

テーマ 被災した子どもたちに遊び場とイベント等を提供し、希望と笑顔を増やす事業
団体名 希望と笑顔のこすもす公園
代表者 代表 藤井 了
助成額 187万円
選考理由  希望と笑顔のこすもす公園は、震災により遊び場を失った釜石の子どもたちの笑顔を取り戻すため、2012年5月から私設の「希望と笑顔のこすもす公園」を開設し、運営している団体である。
 年間を通じて地域内外の数多くの子どもたちが公園を利用し、キャンドルナイトなどのイベントや、ジャガイモ掘りなどの体験学習など、子どもたちのコミュニケーションの機会や学びの機会を提供している。
 本事業は、子どもたちが安心して遊ぶことができる環境づくりのため、遊具の整備に取り組むものである。子どもたちの笑顔が増え、こすもす公園が地域間交流の促進の場となり、コミュニティの活性化につながるよう期待したい。

 

テーマ 「食がつないで食が創る」コミュニティ形成事業
団体名 特定非営利活動法人 とめタウンネット
代表者 理事長 及川 幾雄
助成額 340万円
選考理由  とめタウンネットは、登米市で「地域を元気にしたい!」という志をもって活動する人材の育成、コミュニティや団体の活動支援を行う団体で、とめ女性支援センターhugの運営や女性たちの手仕事プロジェクトの支援などに取り組んでいる。
 本事業は、南三陸町や登米市の住民へのヒアリングをもとに、家庭料理、伝統料理、行事食のレシピ集を作成し、料理教室や食事会を開催して、若い世代と高齢の世代、南三陸町から登米市への移住者と登米市民との交流を図り、最後は料理本としてまとめる。
 事業の組み立ては非常に分かりやすく、着実な成果を生むと考えられる。移住者というマイナスイメージをプラスに変え、食文化を含めた新たなコミュニティづくりにつながるよう期待したい。

 

テーマ コミュニティカフェ・うめばたけ
団体名 特定非営利活動法人 まちの寄り合い所・うめばたけ
代表者 代表理事 伊藤 壽朗
助成額 162万円
選考理由  まちの寄り合い所・うめばたけは、震災により分断されたコミュニティの再生と活性化を目的に、石巻市山下地域でサロン活動やイベントの企画と運営を行ってきた団体である。
 本事業は、高齢者の孤立を防止するため、ものづくりや演奏会などのイベント性を備えた魅力的なサロン活動を行い、高齢者の外出を促そうとするものである。また、サロン活動の参加者へのアンケート調査や、参加者の得意分野を活かした講座を行うなど、参加者一人ひとりの生きがい、やりがいを引き出すよう工夫する。
 本助成を通じて、震災被害の大小によって分断されがちな住民が共に楽しく過ごせるようなコミュニティづくりにつながるよう期待したい。

 

テーマ 住めなくなった海辺の賑わいと暮らしの再生プロジェクト
団体名 荒浜再生を願う会
代表者 代表 貴田 喜一
助成額 200万円
選考理由  荒浜再生を願う会は、災害危険区域に指定された仙台市荒浜地区において、ふるさと再生を目的とし、震災前の生活と文化の継承、荒浜の魅力を伝えるための交流イベントの企画と運営を行ってきた団体である。
 本事業は、地元住民と専門家による議論の場を継続し、海辺を利活用した先進地の視察、荒浜の歴史と文化を伝える講座を行うものである。また、荒浜を訪れる地元住民や地域外の人々に荒浜の魅力を伝えるためのカフェを運営し、定期的にイベントを開催する。
 荒浜地区の復興の足掛かりが得られると共に、この取り組みが他地域にも広がることで、被災地全体のコミュニティの復興につながるよう期待したい。

 

テーマ 被災した障害者と家族の生活再建を応援するプロジェクト
団体名 特定非営利活動法人 ポラリス
代表者 代表理事 田口 ひろみ
助成額 262万円
選考理由  ポラリスは、障害者を支援する団体が少ない山元町において、震災後に障害者の就労支援事業所を立ち上げ、障害者の孤立を防ぎ、社会参加の促進に取り組む団体である。
 3つの新市街地がつくられ、2つの復興公営住宅が完成したとは言え、被災した障害者は将来の生活など多くの不安を抱えている。
 本事業は、ソーシャルワーカー等による孤立しがちな地域住民の心のケア、一人暮らしの障害者や親が亡くなった後の自立を見据えた生活再建支援、障害者と地域住民との交流の場づくりとして、園芸や植林活動への参加、調理、茶道、芸術鑑賞を行うものである。
 アートと園芸を組み合わせた取り組みは、工賃を予算化するなど、障害者の社会参加や、やりがいにつながる工夫をしている。
 助成終了後も公的サービスと併せて、障害者と地域住民が一緒に様々な活動が続けられるよう期待したい。

 

テーマ 地域につなげ地域に根付く 井戸端ボトムアップ事業(略称:いどばたボトムPJ)
団体名 特定非営利活動法人 市民公益活動パートナーズ
代表者 代表理事 古山 郁
助成額 300万円
選考理由  市民公益活動パートナーズは、福島県北部を中心に市民活動団体を支援する民間の中間支援組織である。震災後は、原発事故による浪江町からの避難者と地域住民をつなぐ情報誌「おたがいさま新聞」の発行、地域の復興を担う人材の育成に取り組んできた。
 本事業は、復興公営住宅がある県北地域を中心に、避難者と地域住民の手でコミュニティづくりを進めるため、新たに2つの活動を始めるものである。
 避難者と地域住民が震災の記憶を共有し、共感とつながりを深めるプログラム「出前!井戸端会議」に取り組む。次にその中からコミュニティづくりを担う次世代のリーダー育成プログラム「地・コミュニケーター養成講座」に取り組む。
 コミュニティづくりの内容やメンバーは固定化しやすい。民間らしい柔軟な発想を持った人材が育ち、被災者と地域住民が共にコミュニティづくりに取り組めるよう期待したい。

 

テーマ 分かち合い流通の確立―分断された原発避難区域から「繋がり」と「生きがい」創出―
団体名 特定非営利活動法人 がんばろう福島、農業者等の会
代表者 理事長 齊藤 登
助成額 500万円
選考理由  がんばろう福島、農業者等の会は、福島第一原発事故による風評被害を農業者自らの力で克服し、福島県内の農家が協力して、ネットショップを通じて、消費者に直接農産物を送り届ける活動に取り組んで来た団体である。
 本事業は農産物の「買い取り」という手立てにより、売り場と生きがいを失った高齢の小規模農家や、避難指示が解除された地域で農業の復活と損害賠償からの自立を試みようとする農家の生産意欲を高めるため、ワンコインで購入可能な農産物の販路を、首都圏の企業向けに新規に開拓するものである。
 農家との共働・共創に向けて果敢に取り組む姿勢を評価した。目標設定は無理のないものと思われ、実現性が期待できる。本助成を通じて事業が自立化するよう期待したい。

 

テーマ 原発被災者の若者コミュニティの創出と次世代育成及び地域文化継承事業
団体名 特定非営利活動法人 とみおか子ども未来ネットワーク
代表者 理事長 市村 高志
助成額 400万円
選考理由  とみおか子ども未来ネットワークは、「原発被害により分断された広域避難者と避難元で生活する人々、支援者が、『ふるさと感』を感じられる繋がりの構築」を目指し、富岡町の住民を対象にタウンミーティングや若者交流サロン、情報紙の発行に取り組んできた。
 本事業は、これまでの活動実績を下地に、聞き書き事業「おせっぺとみおか」を若者たちの視点で再構築するものである。また、住民の心に触れることで生まれた若者たちの新しいアイデアが実現できるよう、企画立案から実施までを応援する。
 「聞き書き」を通じ、若者が故郷の存在と自らのアイデンティティーを確認する大切な機会になると考えられる。若者が同年代の仲間や年配者たちと関わることで、故郷やそこで暮らしてきた人々への敬意と、そこで育った若者自身の誇りが育まれるよう期待したい。

※「おせっぺとみおか」とは、富岡町の学生たちが、地域の年長者たちを中心とした住民への「聞き書き」という手法を通して、自らが育った地域の歴史・風土、先人たちの教えなど有形無形の財産を学び、故郷に脈々と息づいてきた「暮らし」を継承する行為から、自らの生活を考え、将来を生き抜いていける力を養うことを目的とした事業。

 

テーマ 空き家をDIYの教材として活用した地域コミュニティづくり
団体名 特定非営利活動法人 中之作プロジェクト
代表者 代表理事 坂本 政男
助成額 325万円
選考理由  いわき市中之作地域は震災に伴う過疎化の進行と被災した建物の無償解体制度によって、港町の貴重な建物が次々と取り壊されている。中之作プロジェクトは、地域の空き家の修復と活用を通じて、集落の風景保存と活性化に取り組む団体である。
 本事業は、空き家をDIYの教材とし、住民参加で再生するという取り組みは、震災被害を受けた港町の再生につながり、事業の組立てイメージが魅力的である。
 また、空き家バンクの設立、移住希望者と空き家物件のマッチングを組み合わせることにより、地域内外の人たちを巻き込んだ、コミュニティづくりの大きな絵を描いている。
 本助成を通じて、港町の風景を作っている建物を残して活用する仕組みが構築されるよう期待したい。