東日本大震災現地NPO応援基金[特定助成] 「大和証券フェニックスジャパン・プログラム2018」 選考結果について

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大和2018選考結果冊子(選考結果冊子:PDF版)

東日本大震災現地NPO応援基金[特定助成] 「大和証券フェニックスジャパン・プログラム2018-被災地の生活再建に取り組むNPOの人材育成-」の新規助成ならびに継続助成の選考を行い、下記の通り決定いたしました(助成期間 2018年10月~2019年9月)。

大和証券フェニックスジャパンプログラムこのプログラムは、大和証券株式会社による「ダイワ・ニッポン応援ファンドVol.3 ―フェニックスジャパン―」の信託報酬の一部をご寄附いただき、日本NPOセンターが現地NPO応援基金の特定助成として市民社会創造ファンドと協力して実施するものです。2012年より開始し、年1回の公募により実施しています。
プログラム概要と過去助成実績

助成先一覧

【新規助成】

No. プロジェクト名/団体名 所在地 助成額
(単位:万円)
18
1-1
にじいろクレヨン事務局体制強化計画
特定非営利活動法人にじいろクレヨン
宮城県
石巻市
430
18
1-2
被災地における重度障害者支援を担う若手リーダーの育成
特定非営利活動法人髙橋園
宮城県
石巻市
390
18
1-3
漁師の担い手不足を解決する関係人口増加プログラムを担う職員の育成
一般社団法人ピースボートセンターいしのまき
宮城県
石巻市
207
18
1-4
人と自然のつながりを再構築し、地域に芽生えた想いを体現・事業化できる組織づくりのための経営人材の育成
特定非営利活動法人ホールアース研究所(ホールアース自然学校 福島校)
福島県
郡山市
366

【継続助成】

No. プロジェクト名/団体名 所在地 助成額
(単位:万円)
18
2-1
地域に必要な活動を継続できるチームのマネジメント力を身につける(2)
特定非営利活動法人奏海の杜

宮城県
南三陸町
361
18
2-2
対象者の事務局長就任を目的とした資金調達面能力を主軸とする人材育成(2)
認定特定非営利活動法人桜ライン311
岩手県
陸前高田市
355
18
2-3
組織基盤強化のための事務局力育成(2)
一般社団法人日本カーシェアリング協会
宮城県
石巻市
400

※助成対象件数  7件(新規助成4件、継続助成3件)
※助成総額  2,509万円

選後総評

選考委員長 須田 木綿子

 本助成プログラムの目的は、東日本大震災の被災者の生活再建に取り組む現地NPOの人材育成を支援することである。被災地のNPOが地域のニーズをくみ取り、効果的な支援活動を継続して行うための一助として、スタッフの育成とそれを通した組織基盤の強化をはかる目的で、2012年から開始された。今年は7年目となる。

[今年の応募案件の特徴]
 震災後の年月を経るにつれ、応募団体の顔触れや活動内容は変わる。今年度は、そのような変化がとりわけ顕著であった。
 震災直後は被災地への社会的関心も高く、多くの支援資金とボランティアが現地に集まった。しかし時間の経過とともに、それらは減少傾向にある。応募団体が取り組む課題も変化した。瓦礫撤去などの震災に直結する課題から、まちづくりやマイノリティ支援など、平時の課題に移行しつつある。これを反映して、今年度の選考委員会の議論も、次の3点に焦点があてられた。
 まずは、団体の財政状況である。毎年の議論のポイントではあるが、今年度は、その重要性が増した。上述のように、現地に向けられる助成金や寄付金の総額は減少しつつある。このような中で、団体の財政的自立の道筋が見えにくいと採択も難しい。このプログラムは人材育成がテーマであるため、せっかく育成した人材の働き場所がなくなってしまうようでは、助成も生かされないからである。ただし、たとえ現状では多少の財政的不安があっても、それを克服し、団体の持続可能性を開くための人材育成計画については、支援の意義があると考えた。
 二つ目の焦点は、団体の軌道修正力である。被災直後は、団体の本来の目的には必ずしも合致しなかったり、あるいは団体のキャパシテイを超えるような事柄であっても、目の前の課題には対応しなければならない。しかし、そのようなステージは既に過ぎた。現段階では、団体のミッションを改めて確認する必要がある。これまでの活動を整理し、対象と目的を絞り込んで、次のステップに踏み出すための力になるような人材育成計画が求められるところであり、今年度の選考でも、そのような応募案件が高く評価された。
 三つ目の焦点は、民間の市民が活動することの意義である。すべてが麻痺したような被災直後の状態とは異なり、今や、行政も、企業も、既存の地域の組織も、機能を取り戻している。このようななかで、市民の自主的な組織でなければできないこと、市民団体が取り組んでこそ意味のある活動とは何なのか。それを示してくれるような人材育成の提案を応援することとした。

[選考過程と結果]
 今年の助成対象は、助成件数7件、助成総額2,509万円であった。このうち新規助成では21件の応募に対して4件、1,393万円を採択した。
 寄せられた応募書類は、まずは事務局にて集約し、応募要件を満たしているか等の形式的なチェックを行う。そのうえで、各選考委員がすべての応募書に目を通し、選考委員会に臨む。こうして採択候補を絞り込むのだが、第一段階の選考では常に、多めに候補を確保する。そして事務局は、これら候補団体を現地訪問し、選考過程であげられた疑問点の確認や追加情報の収集を行う。この新たな情報をもとに第二段階の選考委員会を持ち、最終的な決定がなされる。 
 今年度の確認事項として目立ったのは、被災者の生活再建との関連性である。平時への移行が進むにつれ、応募団体が取り組む活動のテーマは、被災地以外の地域でも重要性を増している社会的課題に連なるものが増えた。しかし、そのような普遍的な課題であっても、被災地ゆえの複雑さ、困難性があるはずである。これら被災地の特殊性が意識されているかどうかが、採択の可否をめぐる最終的な判断に影響した。
 継続助成の選考では、応募団体に選考委員会の場にお出でいただき、新規助成による活動状況と継続助成の計画に関するプレゼンテーションを行っていただいた。さらに選考委員との質疑を経て、3件を採択した。助成額は1,116万円であった。
1年間の助成で当初の目的は十分に達成されたため、継続応募をしない団体があった。同じく1年間で確実な成果をあげ、さらなる発展のために継続応募をした団体もあった。選考委員会は、両方のケースを嬉しく受けとめた。
 継続助成の選考委員会では、助成開始直後の合同研修会以来、ほぼ1年を経て、育成スタッフの皆さんに再びお目にかかる。いずれの育成スタッフも、力強さを増しておられた。そして今年度はとりわけ視野の広がりと思考の深さにおいて、また自分自身の可能性を信じるという点において、大きく成長されている様子を拝見した。選考委員一同、この助成プログラムの意義に改めて思いを致し、一層の励みを得た。

【選考委員】
委員長  須田 木綿子(東洋大学 社会学部 社会福祉学科 教授)
委員   市川 斉 (公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会 常務理事)
委員   佐久間 裕章(特定非営利活動法人 自立支援センターふるさとの会 代表理事)
委員   手塚 明美(特定非営利活動法人 藤沢市市民活動推進連絡会 理事・事務局長)
委員   横山 正浩(大和証券株式会社 広報部 CSR課 担当部長(CSR課長))
委員   吉田 建治(認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター 事務局長)

助成概要と選考理由

【新規助成】

テーマ にじいろクレヨン事務局体制強化計画
団体名 特定非営利活動法人 にじいろクレヨン
代表者 理事長 柴田 滋紀
助成額 430万円
選考理由  この団体は、東日本大震災の発災直後から、宮城県内各地の避難所で大人以上にストレスを抱える子どもたちと過ごしてきた。団体のミッションを「子どもを中心においた豊かなコミュニティづくり」とし、子どもの居場所づくりや子どもを見守るコミュニティづくり、子どもの健全育成に効果の高いと考えられる講座や研修を展開し、現在も地域の復興を支える団体として地域住民とともにコミュニティ形成に継続的に関わりを持っている。
 活動開始から7年が経過し、まちの復興に少しずつ兆しが見えてきている今、本団体の活動は地域の中でますます重要性を増している。しかしながら、一過性の緊急的援助資源による支援活動の時期の終焉が目前に迫る中、地域課題解決に向けた恒常的支援へ活動を移すためには活動組織の基盤を盤石にし、地域資源を活用する必要がある。
 本助成により地域に根ざした組織内人材の育成を図ることで、組織の体制を整え、今までの活動経験を活かした地域のNPOとして地域課題解決に寄与することを期待したい。

 

テーマ 被災地における重度障害者支援を担う若手リーダーの育成
団体名 特定非営利活動法人 髙橋園
代表者 理事長 髙橋 博美
助成額 390万円
選考理由  東日本大震災以前においても、セーフティネットが相対的に脆弱であった地域においては、震災が社会的課題をより深刻化させ、あるいは顕在化させたケースは多い。何とかしなければならないという「思い」が多くの地域で市民活動団体の立ち上げにつながっている。官だけには頼らない、このような自発的な動きは、これからの日本の社会を考えた時に、大きな意味のあるムーブメントであろう。石巻で重度障がい者支援を行う本団体もそのような団体の一つである。一方、発災から7年以上が経過した今、将来の活動のための体制づくりは、本団体を含めた地域の市民活動団体にとって、非常に重要になっていると思われる。
 長期的にニーズのある課題について取り組むためには、「思い」だけではなく、安定的な経営基盤が確立されなければならないのは論を待たないからである。マネジメント層の世代交代、持続的な収益モデルの確立等、本プログラムへの参加が、本団体の基盤づくりの一助になれば幸いである。

 

テーマ 漁師の担い手不足を解決する関係人口増加プログラムを担う職員の育成
団体名 一般社団法人 ピースボートセンターいしのまき
代表者 代表理事 山元 崇央
助成額 207万円
選考理由  宮城県石巻市並びに女川町では、人口流出と高齢化によって漁業・水産業の人手不足が深刻になっている。そこでこの団体は、漁師の家庭に滞在し、漁村の文化や漁師の仕事を体験するプログラム「イマ、ココ プロジェクト」を立ち上げ、交流・関係人口の増加と、移住定住の促進を図っている。これまでに1,526人の参加があり、継続した関係を持つようになった参加者も生み出しているが、年月の経過とともに徐々に参加者が減少。より多くの方に参加いただくための広報の強化が課題となっている。
 今回の助成では情報発信力の強化のための研修のほか、類似事業を行っている先進地の取り組みを学び、参加者の獲得や受け入れ体制の充実にむけた計画作りを目指す。育成対象スタッフは「魅力の発信がうまくできず、集客に結びつかないために非常に悔しい思いをしている」という。直接向き合う地域の方々の思いをより広く伝え、活動に参加する人の増加につなげていくためにも、情熱を持って取り組んでほしい。

 

テーマ 人と自然のつながりを再構築し、地域に芽生えた想いを体現・事業化できる組織づくりのための経営人材の育成
団体名 特定非営利活動法人 ホールアース研究所(ホールアース自然学校 福島校)
代表者 代表理事 山崎 宏
助成額 366万円
選考理由  この団体は1982年に静岡県に設立され、環境教育、野外教育の普及啓発などに関わる事業を行い、持続可能な社会づくりに寄与することを目指している。また、東日本大震災以降、福島事務所(福島校)を設立。現地のスタッフが常駐し、震災からあぶり出された問題に対して取り組み、福島及び東北の地域課題を解決することを目的としている。
 本助成では、福島校のチーム作りと関係性構築を育むマネジメント能力を得ること、先進事例のある地域視察を通じた県内外の協働ネットワークの構築、そして福島校で得られた知見を組織全体の中核スタッフの育成及び研修に活かすことが期待されている。
 同団体が、福島校を設立して5年。当初から独立採算で事業を実施し、本部からの物理的距離や業務量の多さなど継続的な人材育成が困難な中、活動を継続してきた。これから地域・住民とともに前向きに新たなビジョンに向かって一歩を踏み出すタイミングであり、そのためにも組織の経営を安定させ、より良いマネジメントがなされることを期待したい。

 

【継続助成】

テーマ 地域に必要な活動を継続できるチームのマネジメント力を身につける(2)
団体名 特定非営利活動法人 奏海の杜
代表者 理事長 太齋 京子
助成額 361万円
選考理由  この団体は、障がい児・者本人の自立促進と地域の障害理解促進のため、2011年に宮城県南三陸町にて設立された。放課後等ディサービスや障がい児支援の切り口から地域づくりに取り組んでいる。
 新規助成では、育成対象スタッフは「仕事に責任とプライドを持つスタッフとなるために知識と技術の向上」と「自ら考え行動・発信することができるスタッフとなる」ことが目標であった。スタッフからは課題がありながらも、自信をつけ、チームで取り組む有用性や楽しさを実感し、十分に目標達成できたことが報告された。今回の継続助成では、目的に沿った活動を実施し、組織のマネジメントや事務局機能の重要性をきちんと実感できることを目標としている。
 育成対象スタッフの一年間での成長、そして、それを見守るスーパーパイザーの温かいまなざし。改めて人が財産であると感じた。人口減少による担い手不足や安定した財源確保など課題は尽きないが、地域に必要な活動を継続するためにも、チームのマネジメント力を身につけられるよう、次の展開を期待したい。

 

テーマ 対象者の事務局長就任を目的とした資金調達面能力を主軸とする人材育成(2)
団体名 認定特定非営利活動法人 桜ライン311
代表者 代表理事 岡本 翔馬
助成額 355万円
選考理由  この団体は、次の大震災で人命が失われることのない社会を目指し、東日本大震災を後世に伝承し次世代の命を守るために、津波到達ライン上に桜を植樹して風化を防ぎ、全国に防災、減災について意識喚起することを目的としている。本助成では、代表理事が事務局長を兼任している現状を解消すべく、次期事務局長を育成することを目指している。
 新規助成では組織運営などに関わる研修の受講、近隣の他団体でインターンシップを行った。また、スタッフや理事で「事務局長に担ってほしい業務」を議論。組織全体で団体の将来像と、スタッフそれぞれの役割の確認につながったという。
 継続助成ではこれまでの取り組みで得た知識と経験をもとに、新規事業作りや団体の支援者管理システムの見直し、スタッフ育成体制の構築を行うことで、事務局長としての業務を実践的に学んでいく計画となっている。
 助成を機にスタッフ間で組織の形を熟慮されていることが本助成の趣旨に深く合致している。育成対象スタッフだけではなく、組織全体の成長につながることに期待したい。

 

テーマ 組織基盤強化のための事務局力育成(2)
団体名 一般社団法人 日本カーシェアリング協会
代表者 代表理事 吉澤 武彦
助成額 400万円
選考理由  この団体が行うカーシェアリング事業は、一般的なカーシェアリングとは異なり、個人や企業からの寄付によるリユース車を活用し、コミュニティ主体で運営する仕組みづくりを行う。交通弱者の移動は全国的に課題となっているが、東日本大震災で被災した地域では、車は震災以前より日常生活を支える必需品として活用されてきている。本事業は、発災後、多くのコミュニテイが崩壊し、新しいコミュニテイがつくられ、その絆のたすきとしての役割を担ってきたと考えられる。未だ復興途上にある地域も多い上に、移動に困難を抱える地域も併存している中で、本事業の継続的な活動は多くの住民から求められている。更に、既に実施をしている本事業を支えるレンタカー事業やカーリース事業、保険代理店事業などの事業展開を進める必要にも迫られている。
 新規助成により、事務局人材の専門性は高まったが、同時に今後の組織の継続的な運営と経営基盤強化を進めることも重要である。今回の継続助成によりそれらを達成し、地域の活性化に寄与することを強く望む。