東日本大震災現地NPO応援基金(一般助成・第3期)第3回助成審査結果について

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東日本大震災現地NPO応援基金[一般助成]第3期第3回助成の審査を行い、
下記の通り決定いたしました。

助成先一覧

No. 団体名 所在地 助成額
(単位:万円)
1 特定非営利活動法人いなほ 岩手県盛岡市 271
2 特定非営利活動法人石巻復興支援ネットワーク 宮城県石巻市 259
3 NPO法人仙台グリーフケア研究会 宮城県仙台市 300
4 特定非営利活動法人ポラリス 宮城県山元町 286

*助成期間:2018年10月1日から2019年9月30日までの1年間
*このほかに助成対象団体のフォローアップ事業として300万円
助成対象件数:5件  助成総額:1,416万円(フォローアップ事業費を含む)
*第3期第3回助成は、日本NPOセンターが実施する東日本大震災の支援事業のいずれかのプログラムで支援対象となった団体を対象に実施し、2018年6月22日~6月29日までのエントリーについて事前審査および本審査を行い助成が決定したもの。
*応募要項:http://www.jnpoc.ne.jp/?p=15234

審査総評

東日本大震災現地NPO応援基金[一般助成]第3期
審査委員(座長)萩原なつ子

1.審査経過と結果
東日本大震災現地 NPO 応援基金[一般助成]は、2016 年7月より、『未来をつくる持続的な組織をめざした組織基盤強化』を助成する第3期の助成を開始した。第3回助成は、6月22日~29日のエントリー期間に10団体からエントリーがあり、第一段階の審査として事務局担当者による事前審査を実施した。
事前審査では、「A.これまでに被災者の生活再建活動を日常的に行ってきたか」「B.今後も被災した地域や人々に貢献することが期待できるか」「C.団体の伸ばしたい強みや克服したい弱点に有効な組織基盤強化の手法が考えられているか」の3点の審査基準に基づき書面審査と事前審査会での審査を行い、10件のうち5件を本審査対象として選出した。事前審査で不採択となった5団体には「テーマ(組織基盤強化の目的)に沿った実施内容になっていない」「組織課題が生じている理由の現状分析(組織内での議論)が必要」などの理由を結果通知の際にフィードバックし、次回以降の応募に向けて整理、再検討いただくポイントを共有した。
本審査対象となった5団体についても、事前審査で挙げられた課題や検討点を伝え、それを踏まえて具体の組織基盤強化計画をまとめた企画提案書を作成していただいた。第3期の助成は「計画段階から事務局がフォローしつつ組織基盤強化に取り組む」という寄り添い型の助成であり、企画提案書の作成段階から事務局がフォローを行い、その過程を経て提出された企画提案書を第二段階(最終)の審査として審査委員が本審査することとなった。ただし、いわゆる「ドナードライブ」、つまり助成者側の志向・関心で助成対象団体を操作することのないよう、団体の主体性を尊重した企画提案づくりに心がけた。
本審査では、審査委員3名が本審査会に先立ち書面審査を行い、その結果を持ち寄り9月上旬に本審査会を開催し、1件ずつ丁寧に審議を行った。本審査の結果、5件のうち2件は企画提案書の内容どおりとして助成を決定し、2件は計画の一部を見直してもらうこととなり減額で助成を決定した。残り1件は、組織基盤強化の必要性はあるものの、企画提案の内容では有効な組織基盤強化の取り組みにはならないと判断し不採択とした。なお、本審査会では、助成対象団体のフォローアップをより充実したものとするため、事務局による現地訪問や報告会開催などのフォローアップ事業について併せて審議を行い、上記の4件に加え助成対象として決定した。事務局には、助成期間中に適宜各団体のフォローに務め、組織基盤強化が着実に図られるよう期待したい。以上の結果、第3回助成は合計5件、総額1,416万円の助成を決定した。

2.助成の特徴と期待事項
「特定非営利活動法人いなほ」は、発災直後から内陸部への避難者を支援するために立ち上げ、放課後児童クラブの事業、子ども健全育成事業等の実施過程でみえてきた組織の課題を把握し、基盤強化のテーマとして内部人材育成に特化した点は評価されたが、組織の将来像(ミッション・ビジョン)の確認や組織診断も必要であるという課題も示された。内陸避難者への支援は行政、民間含めて減少傾向にあり、本団体が継続的に取り組む意義は大変大きい。内陸避難者の自立支援の拠点としての機能を一層充実するための組織およびスタッフの基盤強化に期待したい。

「特定非営利活動法人石巻復興支援ネットワーク」は、女性活躍支援をミッションとする本団体の活動実績は特筆すべきものがあり、基盤強化のテーマである組織の持続可能性の向上と女性活躍推進のモデルとなる職場をつくる事業に対しては一定の評価が得られたが、内容が盛りだくさんで本来の活動がどうなるのかという懸念があった。復興支援における女性活躍推進は地域活性化において今後さらに重要とされる領域でもあり、スタッフのエンパワメントも含めた組織の基盤強化を図り、つねに「身の丈」を意識した活動を展開していただきたい。

「NPO法人仙台グリーフケア研究会」は、発災前からの活動をベースに発災後も、各被災地で地道な活動を行い、目的も明確で活動実績もある点が評価されたが、基盤強化のテーマである資金確保による充実した事業の展開という目的と実施内容に若干のミスマッチも見られるので修正が必要であるとの指摘がなされた。支援者や関係する組織への働きかけを積極的に行うなどして十分な資金の確保を実現し、持続可能な質の高いグリーフケアの提供を期待したい。

「特定非営利活動法人ポラリス」は、発災前後の活動実績、実施内容ともに申し分なく、今後の目標も明確であること、方向性も具体性があること、また行政区を超え福島県の新地町で障害者の社会資源と人材をつくる事業はNPOならではの活動であると高く評価された。行政区の違いの乗り越え方についての具体性にやや欠ける点、取り組み内容がやや過剰である点が懸念材料として指摘されたが、新たな展開に向けた組織戦略への理解もしっかりしており、本団体のさらなる発展が期待される。

東日本大震災から7年が経過する今も、東北各地では復興支援活動がなされている。しかも、その内容は地域性、状況、対象ごとに異なり、きめの細かい支援が求められている。被災地の抱える課題解決に向けて、助成対象となったNPOには資源(社会的、人的、財政的)の一層の充実など、組織の基盤強化にこれまで以上に取り組んでいただきたい。

*   *   *

[審査委員]
萩原 なつ子 認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 代表理事  ◎座長
栗田 暢之  認定特定非営利活動法人レスキューストックヤード 代表理事
山岡 義典  特定非営利活動法人市民社会創造ファンド 運営委員長

[助成事務局]
認定特定非営利活動法人日本NPOセンター
特定非営利活動法人市民社会創造ファンド

助成概要と推薦理由

組織基盤強化テーマ 内陸避難者の孤立防止及び地域住民との新たなコミュニティ形成に向けた継続的なサポート体制構築を目指した基盤強化
団体名 特定非営利活動法人 いなほ
主な活動地域 岩手県盛岡市
推薦理由 本団体は、行政や社会福祉協議会では支援が難しい事項や要支援者に対し、きめ細やかな支援を継続的に行うことを目的に2015年に設立された。地域の中での「居場所」づくりを重視し、岩手県内の内陸避難者への支援および子ども対象とした事業(放課後児童クラブなど)に取り組んできた。
NPOや教育機関、企業など他機関とのつながりを活かして多様な活動を展開してきたが、組織や事業の持続性を高めるための人材育成を始めとして、資金調達や他機関との連携強化に外部アドバイザーの協力を得ながら取り組む。また、被災者支援と子ども支援というベクトルの異なる事業に取り組んでおり、組織の将来像を明確にしていくための内部研修も並行して実施する。
本審査会では、問題意識はしっかりしているものの、研修内容が膨大にわたることがスタッフの疲弊を招く懸念も指摘された。スタッフが主体的に関われる仕掛けや仕組みをつくりながら、一歩ずつ組織基盤強化を進めていくことを期待したい。

 

組織基盤強化テーマ 団体と活動の持続可能性を高め、地域で女性活躍推進の職場モデルをつくる
団体名 特定非営利活動法人 石巻復興支援ネットワーク
主な活動地域 宮城県石巻市
推薦理由 本団体は、宮城県石巻市において2009年にお母さん仲間で始めた子育て支援組織と震災後に支援に入った組織によって設立された。地元の方言で、一緒にやりましょうという意味の「やっぺす」が会の通称であり、女性支援の活動を中心に震災後の様々な課題を乗り越えるための社会基盤づくりに取り組んでいる。
復興関係の支援金が減少する中、復興住宅でのコミュニティ形成支援や雇用のミスマッチの解消、子育てしやすいまちづくりなど、震災を機に掘り起こされた課題に向き合い、継続した活動を続けるためには、スタッフが子育てと両立しながら地域社会でやりがいのある仕事ができる環境づくりが必要であるが、そのためには、一人ひとりが組織の課題を自分事として見つめ、これからのビジョンを具現化するための基盤強化が必要であり、今回助成することとした。
今回の取り組みにより、スタッフが自分らしく子育てや仕事に取り組む姿が地域の女性活躍推進のモデルになることを期待したい。

 

組織基盤強化テーマ グリーフケアを確実に提供するための資金確保に必要な事務局の体制づくり
団体名 NPO法人 仙台グリーフケア研究会
主な活動地域 宮城県仙台市
推薦理由 本団体は2006年より死別に対するグリーフケアの実践として「大切な人を亡くした方々のためのわかちあいの会(以下「わかちあいの会」)」や、グリーフケアの普及・啓発活動としてグリーフケアの担い手養成講座や講演、研修等を実施している。東日本大震災後は宮城県の沿岸部でも「わかちあいの会」を継続して行い、震災や津波で大切な人を亡くした人々が参加されている。
喪失に向き合うための心のケアの必要性は多くの人に認識されてきているが、「わかちあいの会」は収益事業ではなく、活動を支えるための資金獲得は難しい。グリーフケアの担い手養成講座は収益事業として実績も重ねてきたが、活動資金としては充分ではない。
本事業では、グリーフケアを継続して実践するために、活動資金を集める仕組みづくりの強化に取り組む。震災から年月を経た今でも「わかちあいの会」に初めて参加する人は途切れずにおり、グリーフケアは今後ますます必要となる領域でもある。資金を集めるための積極的なチャレンジの積み重ねから、新たな仕組みが生まれることを期待したい。

 

組織基盤強化テーマ ポラリス×新地町 障害者の社会資源と人材をつくるプロジェクト
団体名 特定非営利活動法人 ポラリス
主な活動地域 宮城県山元町
推薦理由 本団体は、2015年に設立され、被災した過疎地域の「弱者支援」「心身のケア」「地域創生」に目を向けながら、障害者が「素敵に生きて、はたらく」ための支援を宮城県山元町で取り組んできた。現在は、就労継続支援B型事業所、地域コミュニティ創造事業、心のケア事業の3つの事業を実施している。
今回の助成では、山元町と類似の課題を抱えている、隣町の福島県新地町に活動を展開していくことをめざし、相談援助や集いの場づくり、ニーズ調査などに取り組み、そのプロセスを通じて人材育成を図る。実施内容の具体性や実現性と共に、以前に取り組んだ人材育成の実績についても評価を受け、助成が決定した。
本審査会では、行政区を乗り越えて展開していくNPOの活動としての評価もあり、今回の取り組みを通じて組織基盤が強化され、今後の新地町での事業展開が図られていくことを期待したい。