被災地では、地域社会も、人の営みも「現在進行中」、そして「未来へも進行中」
-いま、東日本大震災の被災地に目を向けることの意味はなにか-
2011年東日本大震災の発生から8年が過ぎ、時間の経過とともに被災地のニュースや情報の発信が少なくなりました。また、この8年の間には、日本国内で他の災害も頻発し、災害への危機意識は高まる一方で、過去の被災地にいつまで目を向けるのかという問いが否応なくつきつけられます。
発災から10年の経過を目前とする東日本大震災の被災地では、復興庁の閉庁もささやかれる中、国の公的資金による復興事業も一定の区切りを迎える中で、民間組織の意識としても、10年一区切りという「節目」を迎えるにあたり今後の支援のあり方を再考するといった動きも出てきています。
日本NPOセンターでは2019年6月14日に、「東日本大震災現地NPO応援基金(以下:応援基金)」の一般助成第3期の報告会を、東京・丸の内で行いました。この応援基金は、日本NPOセンターと市民社会創造ファンドとが発災の3日後に立ち上げたもので、現在までに個人・組織・企業から約3億円の寄付をお寄せいただき、92件の助成を行ってきました(現在も基金事業は続行中。)
(基金の概要はこちらから→https://www.jnpoc.ne.jp/?tag=311jisin-fund)
この報告会の目的は、応援基金の助成テーマである「現地NPOの組織基盤の強化」の必要性とその効果を伝えること、そして、今一度、東日本大震災の被災地に改めて目を向けてもらいたいという思いを伝えることでした。
当日は、「組織基盤強化」に取り組んだ現地のNPOからの報告をメインにし、併せてそれぞれの活動地域の「被災地の今」についての発信を行いました。
報告した3団体のお話から紹介します。
公益社団法人 3.11みらいサポート(東北3県)
「伝承活動を支える仕組みを創る」
被災経験を基にした伝承活動の価値は、被災された方、被災した地域、そして語り部や遺構保存の活動のためだけにあるのではない。被災を通じて培った教訓を多くの人に伝えることにより、伝え聞いた人の心に留めてもらい、いつか自分や周りの人の命を守れる人を増やすためのものでもある。
つまり、「あなたは支援者であるだけでなく、将来の受益者となる可能性もある。その時に、我々の経験が活かされることを願っての活動である」ということ。
東北での出来事や個人の経験を伝えるだけでなく、全国の防災や減災意識を変えるきっかけとなるよう、継続的な伝承活動を支える仕組みづくりに取り組んでいる。
特定非営利活動法人 陸前たがだ八起プロジェクト(岩手県陸前高田市)
「最後まで、仮設住宅での住民、自治会支援を行う」
岩手県陸前高田市のオートキャンプ場を活用して建設された仮設住宅で活動。戸建ての仮設住宅と集合の仮設住宅の両方が建設された珍しい、また陸前高田市で最大規模の仮設住宅である。設置と同時に、サロン活動、畑作りや健康マージャンなど仮設住宅でのコミュニティづくりの支援を始めた。さらに、近年は地域住民の交流機会と高齢者の外出機会づくりのための遠足といった企画も立ち上げ、活動を続けている。
8年の年月を経て、多くの住民が無事に退去をされて仮設住宅内の様子も変化した。同時に、退去した後の引っ越し先が同じ市内といえ、元々住んでいる人との心理的距離もできやすく、新しい関係づくりに苦労したり、生活環境に上手くなじめないといったことも見聞きするようになった。
退去というフェーズを迎えたからこそ、「退去後」も元気に暮らせる準備や、新しい生活の素地を作っておくことの必要性が見えてきた。仮設住宅に住む最後の一人まで支援をすることを目標にしながらも、退去後も継続する関係性の中で、新たな生活場所における心豊かな暮らしも応援できるよう、運営の柔軟化などの基盤整備を行った。
特定非営利活動法人 ポラリス(宮城県山元町)
「創造的な障がい児・者の支援を行う」
活動地である山元町は宮城県の最県南の町で、被災した地域の中でも「過疎地」といえる。そんな地域ゆえに従来から、障がい児・者の支援サービスを行う主体(組織)がごく限られていた地域である。そんな地域が被災した。社会資源すら充分でない環境の中でポラリスは、限られた資源を工夫すること、また、新たな工夫によって資源そのものを作り出すことによって、障がい児・者がいかに地域生活を維持していくかという課題と向き合った実践を進めてきた。
「過疎問題」にどう向き合うか。その解題に向き合う共通の思いが、同じく都市部から離れた隣県の最県北の町である、福島県新地町との連携に繋がった。現在は、県境をまたぎ、障がい児・者にとっての課題解決に向け、ポラリスによる創造的な工夫と経験の転用が進み始めている。自らの組織基盤の強化が、他地域の課題解決に目をむける結果となった事例である。
この3団体の活動をはじめ、被災地の住民と地域とともに活動するNPOの活動に触れて感じることは、そこに暮らす人の人生と、地域社会の生活は現在進行中であるということです。同時に、そこに暮らす人達だけではなく、日本に生きるわれわれにとっても未来の教えをもたらす場となっています。登壇した3.11みらいサポート専務理事・中川政治さんの言葉を借りてこの報告のまとめとします。
「東北に何かをしてあげに行くのではなく、東北からもらう、学ぶ、そのために行く。
そして、東北では、全国の皆さんにお返しできるようなものを創って、迎える。
そんな関わりを増やしていきませんか。」
(参考)東日本大震災 現地NPO応援基金 報告会 開催概要
https://www.jnpoc.ne.jp/?p=17795