2018年9月5日(水)、「第2回市民社会創造ラボ」を日本NPOセンター会議室で開催しました。
・ ゲスト 松原 明さん(シーズ・市民活動を支える制度をつくる会 理事)
松原さんのお話は多岐にわたりましたので、以下に当日のパワーポイント原稿を抜粋し、その一部をご紹介します。
当日資料の全体はこちら>>第2回市民社会創造ラボPPT 松原明さん
■ 日本の「市民社会」はどうなっている?
【市民社会概念のおさらい p14】
- 市民社会とは、政治的ワードである。民主主義社会において、主権者の統一性・実体を示すためにつくられた民主制と一体性を持つ。
- 16世紀から18世紀に確立し、19世紀には一時衰退。20世紀末になり、東欧革命により復活。
- 16世紀から17世紀は政治的市民の時代。18世紀から19世紀は経済的市民の時代。20世紀末からは再び政治的市民(ただし、結社的市民)の時代へ。
- 20世紀後半からの福祉ミックスの影響を受けて、経済的機能も担うことになった。
【NPO法の意義の再確認 p16】
- 規範的市民社会を結社市民社会に変える
- グローバルな民主主義の復興運動の中の日本での呼応
- 個人主体の民主主義から、結社による多元的民主主義の強化をめざす
経済の民主化・公正化もめざす。⇒市場の民主化(エシカル投資、CSR、消費者教育)、民主的な市場外経済(フェアトレード、作業所などの生産拡大、非営利事業)も展望する
■ NPOの環境(とNPO)の変化って?
【全体主義と新自由主義の結合 p33】
- 富者を強化することが国力の増強・復興につながる(トリクルダウン、大企業減税等)。
- 格差はむしろ市場競争を活性化させる原動力。
- 政府の資源は、市場を拡大し、アントレプレナーやイノベーションを促進し、社会や政府を効率化することに使う。(休眠預金制度)
※ちなみに、休眠預金制度は、政府自身を市場化するための動きの重要なツールである。社会や地方自治体等を市場化していく。 - 福祉ミックスとの融合で、非営利セクターや地域共同体(コミュニティ)、家族を福祉の担い手に。自己責任の世界へ。家族も企業化する。(子ども・若者は国力の担い手。しかし、大人は別)
【「新しい公共」論の台頭 p34】
NPO法の成立、法人数の増加、非営利セクター改革に従い、「新しい公共」論が台頭してくる。2000年代前半の小泉政権時から広がった。民主党のイデオロギーと言われがちだが、最初にこのコンセプトを採用したのは、自公政権。その後、企業CSRや社会的企業の動きを受けて、担い手が広がる。
行政だけが公共の役割を担うのではなく、地域の様々な主体(市民・企業等)が公共の担い手の当事者としての自覚と責任をもって活動することで「支え合いと活気がある社会」をつくるという考え方(内閣府の定義)
■ 市民社会はどうすれば創造(再構築)できるか?
【現代の公共の課題 p42】
20世紀以降の「公共」は、19世紀前半以前の「公共」と求められるものが大きく違ってきている。
- 一元的公共圏だけでは、「公共性」の理念が満たせなくなってきている。
- 政治、社会、経済の「公共」を扱わなければならない。
【公共圏と公共的空間 p43】
今日は、多様な公共圏とそれをつなぐ公共的空間の両方が必要とされる。
公共圏 | 一元的 | ともに活動する場だが、ともは「友」。仲間と出会い、協働する場。共通の価値を求める場。異質なものは排除される場合が多い。多元的社会では、単なる競争や闘争だけとなる可能性があり、市民社会の一体性を確立できない。 |
公共的空間 | 多元的 | ともに活動する場だが、他者と出会い、協働する場。他者は、敵や存在を奪われた者など。多様な公共圏が、出会い、協働する場でもある。 |
【新しい公共的空間が必要とされている p47】
- かっては、公共は一元的で、言論的な場。福祉国家においては、公共は政府が独占。
- 今からは、公共的空間は、多様な公共圏が出会い、協働する場であり、政治・経済・社会を統合した活動的な場として市民社会再構築のために必要となる。
- 市民社会の心臓に当たる公共的空間をどう作り出せるか?が、市民社会再構築の最大の課題。
- NPOも、公共の構築という第4の機能が必要となってくる。
*冒頭の資料は、松原さんのご了解を得て掲載しております。松原さんは、「市民からのパブリックコメントを一蹴した休眠預金活用審議会の委員を代表にしている日本NPOセンターに、市民社会や社会正義を語る資格はない」とのお考えをお持ちですが、今回の市民社会創造ラボには、立場の違いを超えてご登壇いただくとともに、当日資料の公開にも同意をいただきましたことに感謝いたします。
《第2回市民社会創造ラボ(終了)ゲスト紹介》
1960 年大阪府生まれ。神戸大学文学部哲学科卒。広告制作会社、フリーの経営コンサルタントを経て、1994年、NPO法立法を推進する「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」を創設。事務局長・代表を務める。
1998年のNPO法創設、2001年の認定NPO法人制度創設、2009年のNPO法人会計基準策定、2009年の日本ファンドレイジング協会設立、2011年のNPO法改正などを推進。NPO支援制度やNPO支援機関の創設に取り組んできた。自治体とNPOのパートナシップ推進なども行う。
次回の「第3回市民社会創造ラボ」は、11月8日(木)に開催します。ゲストは、NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡 理事長の津富 宏さん。「市民社会をつくる就労支援『静岡方式』」をテーマに語っていただきます。多くの皆様のご参加をお待ちしています!
お申込みはこちら>>第3回市民社会創造ラボ 開催概要/申し込み