全国のNPO支援センターのネットワーク組織である「NPOの法制度等改革推進会議」(事務局 日本NPOセンター)では、『休眠預金等活用審議会における議論の中間的整理』が公表されたことを受けて、以下の意見書を取りまとめました。
民間公益活動促進のための休眠預金等活用についての制度の詳細は以下をご覧ください。
http://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/
休眠預金等活用審議会「中間的整理」の課題について
NPOの法制度等改革推進会議
(事務局 特定非営利活動法人 日本NPOセンター)
休眠預金等活用審議会の中間的整理や審議会の議事録を読むと、最も重要な「1.法の基本理念の具体化」でいくつかの重要な項目が未整理であり、それが多方面での混乱や意見の相違を生んでいると考えられます。また「2.休眠預金活用により優先的に解決すべき社会課題」では社会課題を提示することができず、その決定を未存在の指定活用団体の役割とする意見を提示しています。
これらは審議会の6の論点の根幹を成すものであり、その部分を曖昧にしたまま技術的な論点を審議することは大きな問題があります。休眠預金の活用をさらに国民的な議論とするために下記の点についての整理をしていただきたいと考えます。
1.法の基本理念の具体化の課題
(1)民間公益活動の範囲と、審議会で行われた議論に差異が存在する
休眠預金は、民間公益活動、別の言い方ではソーシャル・セクター(社会的活動、社会的事業)へ活用することになっています。それは非営利セクター(非営利活動、非営利事業)や市民セクター(市民活動、市民事業)ではありませんが、それを含むと一般的には理解されています。この概念は非常に幅が広いため、休眠預金をどこに活用するのかの整理が必要です。例えば大学や企業が民間活動と連携しながら先駆性を持って大掛かりに行う事業や活動と、行政や企業と対立する場面もある「環境保全を地域で行う事業や活動」や「人権問題をテーマにした事業や活動」は明らかに別の性質を持っていますが、多くの場合でともに自身を民間公益活動/ソーシャル・セクターにおける活動だと認識しています。
一方、休眠預金における審議会での議論では「成果志向」、「先駆性・革新性」、「社会的インパクト評価」、「外部資金・社会的投資の呼び水」などがキーワードとなっています。前述のソーシャル・セクターや民間公益活動の分野の幅に比較して、このキーワードに現れている議論の枠組みが狭すぎることが「休眠預金を何に活用するのか」という理解をしにくくし、その結果として中間まとめが両論併記的で曖昧なものになっていると考えられます。
これは本来的な問題であるため、早急に休眠預金の活用における民間公益活動/ソーシャル・セクターの範囲とキーワードを整理し、国民に分かりやすく説明すべきです。
(2)民間公益活動を行う2つの対象に、休眠預金活用の議論が対応できていない
民間で行われる公益活動には大きく2つのタイプがあります。一つは、社会問題を発見しその解決を図るために事業や活動を行うタイプです。ここでは多くの場合、問題意識を持つ個人や団体が何らかの事業や運動を事業計画として設計し、それを専門的な知見やネットワークを形成するなどして課題の解決を測っていく。「ソーシャル・ビジネス」型の民間公益活動は代表的な一つであり、社会の中で大小様々な試みが行われています。
もう一つは、社会課題の当事者がその問題解決のために集まって事業や活動を行うタイプです。これは社会の移り変わりに沿って、過去から現在まで様々な団体が存在しています。当事者性の強い活動ではその課題が当初には社会化されていない場面や、当事者と支援者の熱意や試行錯誤のもとで行われていて事業運営における専門性が十分でない場面がありますが、地域社会のセーフティネットの基盤となっていること、社会構造を変えていく先駆性を持つ場合も少なくないことも一つの特徴です。
「制度の狭間にある人/行政施策では対応できないもの等に支援の手を伸ばそう」という立法の趣旨から、休眠預金は両者に対応した活用がされるべきです。しかし「成果志向」、「先駆性・革新性」、「社会的インパクト評価」、「外部資金・社会的投資の呼び水」などのキーワードは当事者性の強い事業や活動には合致しない場面が多いことが予測できます。審議会での休眠預金活用の議論がソーシャル・ビジネス型の事業に偏った結果、当事者性の軽視につながりかねないことへの危惧があります。議論の前提と進め方について再度整理を行い、誤解が生じないよう休眠預金の対象を明確にすべきです。
2.休眠預金活用により優先的に解決すべき社会課題
(3)審議会が基本原則に3つのテーマそれぞれの目的を提示するべき
多くの国民が関係する準公的な性質を持つ休眠預金は、資金の出し手の意志を反映することができないこと(オーナーシップの不在)が特徴です。「顔の見えない個人」に配慮する必要があることから、法では資金の社会的理念や活用目的が設定できないまま具体的な3分野のみが規定されています。そのため、審議会がヒアリングを行って優先的に解決すべき社会課題を具体化することを目指したと想像されますが、中間整理では『「優先的に解決すべき社会の諸課題」は、当事者によって異なり多種多様であったことを踏まえ、審議会としては「基本方針」の段階で絞り込むべきではない』とし、『指定活用団体において「優先的に解決すべき社会の諸課題」を決定することが望ましいのではないかという意見があった』と示されています。
この対応は、新組織を前提とした未だ存在しない指定活用団体の役割と位置付けを高くしすぎています。立法趣旨とヒアリング結果の多様性を受けるならば、その結果から審議会として3分野それぞれの理念的な目的や方向性を設定した上で、基本理念として社会的に共有するべきなのではないでしょうか。それによって審議会の責任性を明確にし、準公的な資金活用の正当性の社会的合意を促すべきだと考えます。
現在は存在していない指定活用団体へ丸投げするのではなく、審議会として3分野ごとの理念と目的を基本理念に記載することを望みます。
以上
NPOの法制度等改革推進会議参加団体
特定非営利活動法人 北海道NPOサポートセンター(北海道)
特定非営利活動法人 杜の伝言板ゆるる(宮城県)
特定非営利活動法人 せんだい・みやぎNPOセンター(宮城県)
特定非営利活動法人 山形創造NPO支援ネットワーク(山形県)
特定非営利活動法人 うつくしまNPOネットワーク(福島県)
特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ(茨城県)
特定非営利活動法人 さいたまNPOセンター(埼玉県)
特定非営利活動法人 NPO会計税務専門家ネットワーク(東京都)
特定非営利活動法人 子どもNPO・子ども劇場全国センター(東京都)
特定非営利活動法人 日本NPOセンター(東京都)
特定非営利活動法人 藤沢市市民活動推進機構(神奈川県)
特定非営利活動法人 長野県NPOセンター(長野県)
特定非営利活動法人 しがNPOセンター(滋賀県)
社会福祉法人 大阪ボランティア協会(大阪府)
特定非営利活動法人 市民活動センター神戸(兵庫県)
特定非営利活動法人 わかやまNPOセンター(和歌山県)
特定非営利活動法人 ひろしまNPOセンター(広島県)
特定非営利活動法人 ふくおかNPOセンター(福岡県)
特定非営利活動法人 かごしまNPO支援センター(鹿児島県)
本意見書への賛同団体
特定非営利活動法人 あおもりNPOサポートセンター(青森県)
特定非営利活動法人 @リアスNPOサポートセンター(岩手県)
特定非営利活動法人 いわて連携復興センター(岩手県)
特定非営利活動法人 せんだい・みやぎNPOセンター(宮城県)
特定非営利活動法人 あきたパートナーシップ(秋田県)
特定非営利活動法人 あきたスギッチファンド(秋田県)
特定非営利活動法人 山形の公益活動を応援する会・アミル(山形県)
特定非営利活動法人 ちば市民活動・市民事業サポートクラブ(千葉県)
特定非営利活動法人 アートNPOリンク(東京都)
特定非営利活動法人 NPOサポートセンター(東京都)
特定非営利活動法人 まちぽっと(東京都)
特定非営利活動法人 子どもNPO・子ども劇場全国センター(東京都)
西東京市市民協働推進センターゆめこらぼ(東京都)
一般社団法人 ソーシャルコーディネートかながわ(神奈川県)
特定非営利活動法人 新潟NPO協会(新潟県)
特定非営利活動法人 市民活動サポートセンターとやま(富山県)
特定非営利活動法人 いしかわ市民活動ネットワーキングセンター(石川県)
特定非営利活動法人 パートナーシップ・サポートセンター(愛知県)
特定非営利活動法人 市民活動情報センター(愛知県)
特定非営利活動法人 きょうとNPOセンター(京都府)
特定非営利活動法人 シミンズシーズ(兵庫県)
特定非営利活動法人 NPO会計支援センター(兵庫県)
特定非営利活動法人 市民事務局かわにし(兵庫県)
特定非営利活動法人 奈良NPOセンター(奈良県)
公益財団法人 コミュニティ未来創造基金ひろしま(広島県)
特定非営利活動法人 えひめリソースセンター(愛媛県)
特定非営利活動法人 おおいたNPOデザインセンター(大分県)