日本NPOセンター常務理事の山岡義典が「公益法人制度改革に関する有識者会議」がまとめた「議論の中間整理」に対して以下の意見を提出しましたのでご紹介します
なお、他にも以下の意見書が表明されています
* 公益法人制度改革に関する「議論の中間整理」に対する意見
NPO/NGOに関する税・法人制度改革連絡会n * 公法協意見書
公益法人協会
* 公益法人制度改革に関する 「議論の中間整理」について
公益法人制度改革問題連絡会
* 公益法人制度改革に関する有識者会議「議論の中間整理」に対する意見の提出
公益法人改革オンブズマン
公益法人制度改革「議論の中間整理」に関する意見
2004年5月10日
山岡義典
(特定非営利活動法人日本NPOセンター常務理事/
法政大学現代福祉学部教授)
公益法人制度改革に関する有識者会議における検討の中間結果として、「議論の中間整理」がこの3月31日に公表された。将来の民間非営利活動のありかたを左右する重要な観点を含むものとして、その内容に関連して疑問や課題と感じる点を、個人の立場で以下に指摘する。
なお行政改革の視点から考えると、公益法人制度改革だけで官庁からの天下りや公的資金の不透明な循環を抑制または防止することはできない。有識者会議の直接的なテーマではないかもしれないが、行政改革推進事務局としては、法人制度とは別の観点からもその方策を検討し、実効ある方策を実現すべく、本格的に取り組んでいただきたい
(1)「議論の中間整理」で最も問題になるのは、新しい非営利法人制度における解散時の財産の扱いがあいまいにされている点である。これは新しい非営利法人を現在の中間法人と同じ性格のものとすることによって、原則課税への途を開くための布石と考えられてもおかしくない。現在の公益法人を、残余財産分配の可能性を残した法人に移行することは、本来的に不適切であり、法的にも不可能と考えられる。また民間非営利活動へのより多くの人の寄付や参加を促すためにも、対象となる法人が解散時の財産を分与できるものであるかどうかが、誰の目にもわかるものであることが不可欠である。以上の観点から、抜本改革によって創設する新しい非営利法人は完全な非配分を原則とし、残余財産の分配が可能な現行の中間法人とは明確に区分すべきである
(2)「議論の中間整理」において、新しい非営利法人の設立は準則主義で行うこととしている点は高く評価できる。準則主義で設立する場合でも、法の規定と定款への必要事項の記載および一定の情報公開を義務付けることによって、完全な非配分の保障を担保することは可能と考える。この準則主義による設立については、是非最後まで貫徹していただきたい。
(3)「議論の中間整理」では、財団法人については検討課題として掲げられているのみで、本気になって実現を図ろうとする姿勢が見えない。財団法人を避けているとすれば、中間整理で提示している非営利法人の非配分原則が曖昧なためではないかとも思われる。完全な非配分の法人とするなら、社団型の組織とともに財団型の組織を認めることに何ら問題はない。助成型財団をはじめとする財団型の法人は、斬新な考えに思い切って投資することができるという観点から、日本の民間非営利活動の将来の発展のために欠くことのできない重要な役割をもっている。新しい非営利法人の類型のひとつとして実現すべきである
(4)有識者会議では課税関係の課題は扱わないことにしているが、税のことを抜きにして将来の民間非営利活動の促進や発展の枠組みは語れない。完全な非配分の法人においては、原則非課税すなわち会費・寄付金・助成金・補助金などの対価性のない収入については課税しないという原則を貫くべきである。この保障がなければ、自由な民間非営利活動は窒息死する。「議論の中間整理」が掲げた「改革の意義」も全く空しいものとなろう。一定の金額を超える収入について届出をする必要はあろうが、「非対価性収入は非課税」という原則を明確にする必要がある。少なくとも、新しい非営利法人制度はそれを前提として描くべきである。
(5)非配分原則を貫徹した非営利法人のうち一定の社会的な活動を行うものについては、登録等により社会的にその意義を認めるとともに、税制上の優遇措置を付与することは非常に重要なことである。それを「公益性」という言葉で語るのが適切であるかどうかは別として、そのような制度創設の提案自体は評価できる。その取り扱いの仕組みとして、「議論の中間整理」はAとBの二つの考え方を提示しているが、その登録の意義と対象をより広く捉える観点からは、Aが適切である。なお、このような制度の設計は、どのような法人を対象にどのような優遇措置を与えるかのメージなくしては具体的な議論はできない。税制上の優遇措置としては、みなし寄付金の適用、金融収益非課税、寄付者の寄附金控除または損金算入などがあるが、そのどこまでを登録法人に適用しようとするのか、またその登録数は数千を想定するのか数万を想定するのか、あるいはそれ以下なのかそれ以上なのか、その内容に応じて登録等の基準やその方法、実施機関を検討すべきである。「議論の中間整理」では「行政組織の膨張抑制の要請との調和云々」とあってBへの誘導を図っているようにも憶測できるが、同じ数の法人を登録するなら同じ人員が必要なわけで、このような「調和」によって組織のありかたやその対象を制限すべきではない。
(6)「議論の中間整理」の末尾では、「現行の中間法人制度・NPO法人制度との法制上の関係を整理すること」について触れられているが、何よりも必要なことは、まず現在の公益法人(社団法人と財団法人)の改革の具体像を明確にすべきことであり、法制上の整理はその上で考えるべきである。現行の中間法人制度との関係については、もし一体として制度設計することが望まれるなら、完全非配分の新しい非営利法人を「第1種非営利法人」、非配分が不完全な中間法人を「第2種非営利法人」として、制度的にその違いを明確化する必要がある。NPO法人については、新しい非営利法人制度において上記(1)?(5)がその趣旨に沿って十分に実現されるなら、新しい非営利法人に移行することも可能であるが、その移行は新しい非営利法人制度の運用を見極めた上で、一定の時間をかけて判断する必要がある。なお、新しい非営利法人制度は民法34条の規定を根本から変えるものであるから、それを根拠としてきた特別法による公益法人はNPO法以外の法人(社会福祉法人・学校法人・更正保護法人・宗教法人)もすべて影響を受け、いずれは「法制上の関係の整理」が必要になる。新しい非営利法人制度を包括的な法人制度としていくには、これらの特別法による広義の公益法人も、法人格自体は新しい非営利法人として取得するものとし、それぞれの要件によって各法人の認定等を行うこととするのが、制度としては適切であろう。その将来の方向性も視野に入れた、制度設計の議論が望まれる。