「DGI2024報告書: アジアのソーシャルセクターの発展可能性を検証する」の抄訳を公表しました

日本NPOセンターは、香港の調査・コンサルティング機関 Centre for Asian Philanthropy and Society (CAPS) が隔年で実施するアジアのソーシャルセクター比較調査「Doing Good Index (DGI)」に2020年度から協力していますが、このたびDGI2024年度の抄訳版を作成いたしました。

2024年度版*では、アジアのデジタル技術の特集セクションを設けるほか、日本のソーシャルセクターにおける強みや、セクターをさらに発展させるための可能性について明らかにされています。調査では、日本は引き続き「良 (Doing Better)」グループの順位を維持しました。日本は健全な法的規制の恩恵を受ける一方で、ソーシャルセクターへの信頼の欠如が喫緊かつ根深い課題となっています。報告書は、政府と民間の寄付者、ソーシャルセクターが協力して信頼を築き、民間資本をソーシャルセクターに誘導する必要性を指摘しています。

日本語抄訳版では、エグゼクティブサマリーと、第一章、第二章、国別概要(アジアと日本)部分を抜粋して、翻訳しています。

DGI2024抄訳版カバー

エグゼクティブサマリー(概要)
・第一章:
デジタル時代におけるDOING GOOD (社会のためになる活動)
・第二章:デジタル技術とアジアのソーシャルセクター
・国別概要:アジア
・国別概要:日本

Doing Good Index 2024 の主な調査結果

1.アジアのソーシャルセクターではデジタル技術の利用が一般的になっているが、ソーシャルセクターの団体はテクノロジーに関する将来的備えが不十分である。

  • アンケートに回答した日本を含むアジアの団体の95%が業務遂行にデジタル技術を利用しており、88%が今後2年間にデジタル技術の利用を増やす意向を示している。一方で59%の団体がデジタルツールの効果的活用スキルがスタッフに不足していると回答。
  • 他のアジア諸国と同様、日本のNPOもデジタル技術の活用が進んでいる。調査アンケートに回答した日本のNPOの54%はオンライン・サービスの提供を増加させ、57%が日常業務でのテクノロジー利用を増やしている。
  • 日本のNPOにとってハードウェアの入手は課題。39%のNPOがデジタル技術に関する最重要ニーズのひとつに挙げている。また、86%の団体がインターネットへの十分かつ信頼できるアクセスを有する一方、スタッフ用に十分な数のコンピュータを備えている団体は59%に過ぎず、これはアジア平均(69%)より低い数値である。
  • 日本の多くのNPOは、デジタル技術の次段階に進むのにも苦労している。99%のNPOはMicrosoft OfficeやGoogle Workspaceといった基本的なツールを使用しているが、これが高度なソフトウェアの使用となるとこの数値はぐっと下がる(37%)。
  • 日本のソーシャルセクターは、サイバーセキュリティに関する優先順位を上げる必要がある。75%のNPOが自団体でセキュリティ計画を策定していない、あるいは策定しているか不明と回答している。これはアジア平均(70%)より悪い数値である。

2.ソーシャルセクターの規制に関して、アジアの各国政府は多岐にわたるメッセージを送り続けている。 

  • 日本の非営利法人の登録手続きはアジア諸国と比較して短時間で効率的。必要な許可/認証は平均して2つだけで、67日以内に完了できる。これは、アジア平均の3つの許可/認証プロセスと123日の必要日数と比較してのことである。
  • ソーシャルセクターに関する法律を理解するのは比較的困難で、その執行についての見解はまちまち。日本のNPOの71%が非営利法人関連の法律を理解するのは困難と答えているが、アジア平均は55%である。また、それらの法律がきちんと執行されていると考える団体は53%で、アジア平均の63%を下回っている。

3.ソーシャルセクターに流れる資金はおおむね横ばいで推移している。

  • 日本のNPOにとって個人や財団、企業などからの国内資金が最も重要な資金源。団体予算に占める国内資金の割合は、アジア平均の42%に対し、日本では49%。
  • とはいえ、日本のNPOの大多数(84%)は、国内資金の水準は少ないと考えている。

4.アジア中のソーシャルセクターの団体にとって、人材確保は依然として大きな課題である。 

  • 日本では、94%のNPOが「スタッフの確保が難しい」と回答。これはアジア平均の73%を大きく上回り、アジアで最も高い数値となっている。
  • 日本の80%のNPOが、非営利組織で働くスタッフは営利組織よりも低収入であるべきだという世間の認識があると信じている。これはアジア平均の69%と比べて高い。
  • 日本のNPOのうち、団体のキャパシティビルディングのために寄付者から安定した支援を得られている団体はわずか4%に過ぎず、アジア平均の15%を大きく下回っている。現に66%はキャパシティビルディングへの寄付者支援を受けたことがないと回答。これはアジアで最も高い数値である。

5.企業はNPOに積極的に関与しているが、さらなる努力の余地がある。 

  • 日本の51%のNPOが企業からの資金的援助を受けており、これはアジア平均の56%とほぼ同じである。ただし、企業からの資金は団体の予算総額の6%に過ぎない。 
  • 日本の48%のNPOが企業ボランティアと協働しているが、アジア平均の63%に及ばない。
  • 日本は、証券取引所の上場規定にESG報告が義務付けられている、もしくは強く奨励されていると回答した10カ国・地域のうちの1つである。

6.NPOなどのソーシャルセクターの団体は、依然として重要な役割を担っている。

  • 団体のサービス受益者数とサービス需要が過去12カ月で増加したと回答した日本のNPOは、それぞれ47%と49%に及ぶ。
  • しかしながら、NPOの信用については依然喫緊の課題となっている。社会から信頼されていると感じる日本のNPOは、アジア平均の44%に対してわずか8%に過ぎない。同様に、政府から信頼されていると感じる団体は、アジアでは36%であるのに対し、日本ではわずか17%。

国別概要:日本(『DOING GOOD INDEX 報告書 2024年版』より)
*DGI2024調査は、アジアの17ヵ国・地域(バングラデシュ、カンボジア、中国、香港、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ネパール、パキスタン、フィリピン、シンガポール、スリランカ、台湾、タイ、ベトナム)のNPO等2,183団体からのアンケート調査と140人の専門家とのインタビューを通じて収集された独自のデータから導き出された、エビデンスに基づくものとなっている。本調査では、社会的なサービスを提供する組織を「ソーシャル・デリバリー・オーガニゼーション(SDO)」と呼び、非営利団体、社会的企業、財団などを含めた組織が調査対象となっています。日本側の調査対象団体の大部分はNPO法人となります。