はじめに
「参加」は、NPOを活性化し、課題が共有される社会を生み出し、そして参加する市民自身も元気になる鍵となるものです。ここでは、参加促進がNPOにもたらす「市民の参加が生み出す7つの変化」をご紹介しています。
NPOへの「参加」には、ボランティアとして活動に参加するだけでなく、金銭や物品の寄付、さらにはグリーンコンシューマーのように社会性を意識して商品を購入する形態もあります。それらは相互に関係しますが、特にボランティアの参加に焦点をあてています。
この「7つの変化」は、NPO関係者7名からなる編集委員が2015年2月より1年余りの議論を経て決定し、それぞれの「変化」に11名のNPOの方々から事例紹介などでご協力いただいたものを加え、ブックレットとして2016年10月に出版しました。多くのNPO での市民の参加が進み、活動がさらに活発化することを願っています。
市民の参加が生み出す7つの変化
多くの人々の力で課題を解決できる
NPOはボランティアの参加や寄付などの支援を得ることで、多くの人々が力を合わせて課題を解決する状況を生み出すことができます。活動の苦労を自分たちだけで抱え込まず、また、その取り組みの面白さ・魅力を共有し合う仲間を広げることができるわけです。
そうはいっても、そんなに利他的な人がいるのか?そう考えられる人も少なくないでしょう。
しかし内閣府の調査では、「日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたい」と思っている人の割合は65.0%。「あまり考えていない」という人(32.4%)を大きく上回っています。(※1)また、ボランティア活動に関心がある人も59.6%もいます。(※2)ただし、過去3年間にボランティア活動を経験した人は23.3%。関心を行動に結び付けるプログラム作りなどに工夫が必要です。ちなみに、過去3年間に寄付をした経験がある人は47.6%と倍以上。時間や場所の制約が少ない寄付は、より身近な社会貢献活動となっています。
ともあれ、私たちの周りには、社会の役に立ちたいという人々がたくさんいます。こうした人々の存在を信じ、その人々に「参加の機会」を提供して人々の社会貢献意欲を満たすとともに、多くの人々とともに課題を解決していく状況を作りだす。これはNPO特有の課題解決法でもあります。
※1内閣府「社会意識に関する世論調査」2016年2月調査
※2内閣府2015年度「市民の社会貢献に関する実態調査」
意欲的な人々のかかわりで組織に活力をもたらす
NPOはアメリカで使われる Non-profitOrganization の略称で、イギリスではNPOを VoluntaryOrganisation と呼ぶのが一般的ですが、団体に関わる人々の自発的な(voluntary)思いをエネルギーに事業を進めていくのがNPOです。「放ってはおけない」「何とかしたい」といった人々の思いによって、企業とは異なる「もう一つの民間活力」を生み出します。
自発的に関わるがゆえに、それぞれが自らの関心や特技を生かして多彩な事業が生み出されていきますし、先駆的・開拓的な取り組みにも自己責任で挑戦していくことができます。しかも、営利を目的としない活動ですから、「収益が得られないから」と企業が手をつけない分野でも活動を進めてきた事例が数多くあります。
なお、ボランティアが意欲的に活動するには、1.活動のプログラムを自ら選べたり、企画段階から参加できるなど主体的に活動できること、2.自らの活動の成果を実感できること(やる気があるからできるのではなく、できたという実感がやる気を高める)、3.活動の意味を理解できていること、4.活動を通じて気づきや発見があり、自らの成長が実感できること、などが重要です。こうした実感を得ることで、ワクワクしながら活動するボランティアは、NPOに大きな活力をもたらす存在となります。
多様な専門性や経験が活かされる
「ボランティア=素人」と考える人がいます。確かにNPOの取り組む事業については、職員は、日々、多くの情報を得ますし、専従することで経験も蓄積されていきます。こうした点では、ボランティアは職員に比べて「素人」かもしれません。
しかし、多くのボランティアは、それぞれ自身の職務や生活体験を通じてNPOの職員が持っていない高い専門性や豊富な経験をもっています。それらの専門性や経験をNPOで活かす機会を提供し、ボランティアとNPOの職員の専門性が相乗効果を生み出すことによって、NPOの事業展開力や組織運営の質が高まることは、よくあることです。
最近、社会人を中心に「スキルドボランティア」「プロボノ」といった形でNPOに参加するスタイルが普及し出しているのも、ボランティアのこうした専門性に注目しているからです。
個々のボランティアが持つ専門性や経験が社会的に活かされることは、当のボランティア自身にとっても嬉しいことですし、活動への意欲を高める鍵ともなります。また自己の成長や研鑽の機会になる場合もあります。そこで、ボランティアの特質をきちんと評価し、それぞれに合った活躍の機会を提供することが大切です。
財政的基盤の強化にもつながる
寄付者が増加すれば財政に寄与することは当然ですが、ボランティアの参加が進むことで、財政的基盤の強化という副次的効果が生まれることも少なくありません。その理由は、ボランティアが自主的に活躍することで人件費が抑制されやすいということだけではありません。
ボランティアがNPOのなかで自主的に活動できる環境が整うと、NPOを「私(たち)の団体だと思う意識」(オーナーシップ)が高まり、ボランティアがより主体的に活動に参加するだけでなく、活動のベースとなっている組織自体も支えたいという意欲が向上してきます。その結果、会員や寄付者になってくれる場合が多いですし、さらには周囲の人々にボランティアとしての参加や寄付の協力などを呼びかけてくれる方も出てきます。
使途の自由度が高い会費によって自主的な事業を進めやすくなり、後述するアドボカシー活動を進めるための財政的な支えとなることもあります。さらに、多くの会員や賛同者がいることは団体の信頼性を高め、補助金や助成金なども得やすくなります。このようにボランティアの参加促進は、団体の財政的基盤を強化する上でも大きな意味があるのです。
意思決定の質が向上する
ボランティアの活動意欲を高めるには、事業の企画や組織運営などの意思決定に参加する(つまり、単なる参加ではなく参画する)機会を提供することが重要です。自らの創意と工夫を活かして活動できれば、より意欲的に活動したくなるからです。
元来、ボランティアは共感し納得しなければ行動しませんから、活動が必要な背景や活動の意義などについて丁寧な説明が必要です。その際、失敗事例なども含めて組織の課題も誠実に説明すると、組織に対するボランティアの共感が高まり、活動がより意欲的に進められることは少なくありません。その結果、ボランティアの参画を通して、団体が合意と共感を大切にし、透明性も高い組織になっていくという効果も期待できます。
もちろん、この企画や意思決定過程には職員も参加しますから、職員自身が自らの仕事を納得して取り組め、ボランティアとの協働もスムーズに進むという好循環も期待できます。
このように、意思決定段階からボランティアが参画することで、NPO自体も多様な視点やアイディアを得て、より広い視野から意思決定ができるようになり、広く共感を得るプロセスを経ることで、意思決定の質が高まることになります。
なおこの場合、ビジョンやミッション、それに事業や組織運営に関する情報が職員やボランティアの間で十分に共有されていることが重要なことは言うまでもありません。
アドボカシー力を強化できる
ボランティアはサービスの担い手であるだけでなく、活動を通じて感じたこと、考えたことを周囲に発信する存在でもあります。その発信を通じて、団体が取り組む課題が広く社会に共有され、さらにその課題解決のための対策・政策提言の内容を多様なチャンネルで広げ、賛同者を増やしていくこともできます。そこで、多くの人々が参加しやすいキャンペーンを創造できると、発信力は大きく向上します。
しかも無償で取り組むボランティアの発信は、私利私欲によるものではないがゆえに、強い訴求力を持つ場合も少なくありません。このように、市民の参加はNPOのアドボカシーを増幅していく力となるのです。
その上、ボランティア(や寄付者)は、経済的報酬ではなく、NPOのよって立つミッションやビジョンに共感するから、NPOと結びついている存在です。このような支え手の厚みが増すことで、ミッションに従って組織が主体的に事業を進め自由に発信するための組織基盤が強化されることになります。
逆に、権威的存在におもねるなどして、自分たちが正しいと考えることをきちんと表明しないようであれば、ボランティアや寄付者が離れてしまうこともあります。発信・提言を通じて社会問題の解決を進める上で、ボランティアは基盤であり大きな推進力ともなりうるのです。
当事者意識を高め、対話で解決する市民が増える
ボランティア活動や寄付などの形でNPOの活動に参加し続けることで、他人事だった社会の課題が身近なものとなり、課題を「自分事」と捉え、当事者意識が高まってきます。第三者的に社会の課題を傍観するのではない、当事者意識の高い人々を生み出していくことは、市民活動の重要な特長です。
しかも、人々が課題解決の重要な担い手となる体験と実績が蓄積されていけば、「世の中を創っているのは、私たち市民だ」といった認識と自信が高まります。これは「自治の主体」としての意識が人々の間に広がることでもあります。
もっとも、実際の課題解決にあたっては、自分たちだけで解決できることはそう多くはありませんから、協力者を求めることになります。その際、多様な立場にあり意見の異なる人々とも、対話を通じて合意をつむぐことが必要になります。この経験は、単純な多数決での「解決」に帰結させず、対話によって利害を調整し合意を生み出す過程を経験することでもあります。そして、このような経験を重ねていくことで、社会の主体としての「市民」が育まれるのです。
このように会員を含む市民がボランティアとしてNPOのなかで活躍する実践を積み重ねることで、市民が主体となる持続可能な民主主義社会を実現することにつながると言えます。
「市民の参加が生み出す7つの変化」を解説したブックレットを当サイトよりオンラインで販売しています。ぜひご一読ください。