2023年度助成先が決まりました
「子ども/若者ライフサポートプログラム」第1回助成の審査を行い、 下記の通り決定いたしました。
助成先一覧
団体名 | 所在地 | 事業名 | 助成額 |
---|---|---|---|
特定非営利活動法人 キーデザイン | 栃木県 | 地域に根差したフリースクールで、 子ども達の自信を育む | 300万円 |
特定非営利活動法人 全国不登校新聞社 | 東京都 | 不登校当事者・経験者が交流・取材・ 執筆を通してつながる場「不登校ラボ」 | 254万円 |
一般社団法人 カザグルマ | 千葉県 | 子どもの居場所カフェ | 146万円 |
特定非営利活動法人 ネモ ちば不登校・ ひきこもりネットワーク | 千葉県 | 不登校の子どもが安心し、楽しく過ごせる 居場所の継続・安定化事業 | 240万円 |
特定非営利活動法人 Since | 滋賀県 | 不登校児童・生徒の「受容」から「成長」まで 伴走し、地域と連携したフリースクール事業 | 150万円 |
一般社団法人 NIMO ALCAMO | 大阪府 | 若者が自分たちで運営する 居場所カフェ事業 | 295万円 |
特定非営利活動法人 よりみち | 和歌山県 | 隠れた不登校・ひきこもり支援事業 | 150万円 |
特定非営利活動法人 メロディー | 香川県 | 「フリースペースじゆうだ」の継続事業 | 151万円 |
特定非営利活動法人 ブエンカミーノ | 広島県 | 子どものサードプレイス「おかざキッズ」 | 250万円 |
*助成期間:2023年10月1日から2024年9月30日までの1年間
*助成件数:9件
*助成総額:1,936万円
選考総評
1.応募の傾向
「子ども/若者ライフサポートプログラム」の第1回助成は、2023年6月7日に告知を開始した。2023年6月19日~30日の受付期間に30都道府県から53件の応募があった。団体の活動エリアは市区町村域が70%、都道府県域が23%、地方圏域と全国域がそれぞれ4%であった。法人格別では、特定非営利活動法人からの応募が全体の66%となった。団体の財政規模については、1001万~3000万円が36%と最も多く、次いで300万円以下と500万円以下がそれぞれ19%であった。また、応募総額は1億1,931万円、平均応募額は225万円であった。
2.選考委員会 総評
第1回助成は、全国から53件の応募があり、本助成へ寄せられた期待の大きさを実感しました。本助成プログラムを支援くださる武田薬品工業株式会社の皆様に心からの感謝を申し上げます。
この助成プログラムは、「居場所」を日常的かつ継続的に運営する団体が対象でした。これは、日本NPOセンターが実施した「不登校・ひきこもり支援にかかわる団体の活動実態調査」(2023年)において、「居場所の運営」が支援活動の主たる取り組みの上位に挙げられたからでした。子ども・若者が、自由に行くことができる「居場所」で、新たな一歩を踏み出せるような支援を支えることをめざしたものでした。
多くの応募をいただいた中、選考委員会では、委員一人ひとりの知見と経験を通した活発な意見交換により、助成団体を決定いたしました。主な議論のポイントとしては、パーソナル支援を行うことができるかどうか、他団体との連携に積極的なプログラムとなっているかなどでした。また、助成プログラムが終了したあとも、長期的な視点にたって継続的に活動が行われるかどうかも大切なポイントでした。
この助成プログラムの実践が、子ども・若者が、安心して集える居場所づくりにつながり、ここでうまれた成果が各地で同様の活動に取り組む団体にも共有され、全国のモデルとして広がることも期待しています。
助成概要と推薦理由
助成事業テーマ「地域に根差したフリースクールで、子ども達の自信を育む」
2016年発足のキーデザインは、遊びや人との関わりを通じて子どもが学び、人との信頼関係を育むことをめざすとともに、保護者には相談窓口を用意するなど保護者支援にも注力している団体である。
本助成では季節ごとのイベントを実施し、子ども達が自身のやりたいことを見つけることだけでなく、地域の人々との関わりをつくることで、不登校への理解促進や当事者と地域住民双方の居場所づくりを目指す。加えて、家庭訪問や対面による親の会を開催し、保護者とも密に連携しフォローする点は、親子が社会から孤立しないための重要な活動と考える。ぜひ、助成期間中にシングル家庭や送迎が困難な家庭、時間的な余裕が少ない家庭など、一般的な方法で支援し続けることが難しい家庭にどう支援を継続していくかも模索してほしい。今後も地域に根差した活動で、地域とともに子ども達の自信を育んでいく団体として成長していくことを期待したい。
助成事業テーマ「不登校当事者・経験者が交流・取材・執筆を通してつながる場『不登校ラボ』」
不登校新聞社は1998年の設立以降、不登校やひきこもりの当事者・経験者の声を発信してきた。不登校の子どもは年々増加し、2022年度には30万人を超えるなか、支援の対象として捉えられがちな不登校当事者・経験者の子ども・若者が主体となって、家族や学校を含めた社会全体に情報発信する必要性はますます高まっている。不登校当事者・経験者同士が交流を深めながら、取材・執筆活動に参画することによって「出番」を作り、社会とのつながりをもつという意味では、「不登校ラボ」は、セルフヘルプ活動を通した居場所づくりにもなると考えられる。そのため、今回の申請の目的となっている、もっと多くの不登校当事者・経験者にこの活動が知られるような情報発信の工夫が求められるとともに、ピア的な存在としてのサポーター人材の確保・養成も含めた活動が展開されることを期待する。
助成事業テーマ「子どもの居場所カフェ」
カザグルマは、困窮世帯が集住し、外国につながる子どもが多い地域で活動している。代表が経営するカフェの駄菓子コーナーに集まる子どもたちの困難に触れたことをきっかけに活動が始まり、子どもたちの居場所としてのフリースクールやアフタースクールを運営。手づくりの食事も安価で出しており、困窮世帯には無償提供している。
助成事業では、ひきこもりや不登校の子どもたちを含めた子どもの居場所活動、食事提供を、年間300日程度計画しており、信頼できる大人が常駐することで子どもの困難の早期発見と支援の充実をめざす。夏休みには、地域の農家や住民を講師とする体験活動も予定している。子どもたちの困難を踏まえ、学校や家庭に居場所のない子どもを受け入れる活動日数の多さと開催時間の長さを評価。子どもの権利を重視してセーフガーディングのポリシーを作成、安心・安全な活動と運営をめざす姿勢も評価できた。児童養護施設・学校・他の子ども支援団体との連携も持てている。利用者から必要とされているだけに、財政面での継続課題をクリアできるよう期待したい。
■特定非営利活動法人ネモ ちば不登校・ひきこもりネットワーク(千葉県)
助成事業テーマ「不登校の子どもが安心し、楽しく過ごせる居場所の継続・安定化事業」
ネモ ちば不登校・ひきこもりネットワークは、不登校やひきこもりの当事者、経験者が中心となって結成され、不登校の子どもや若者が安心して、楽しく過ごせる居場所「フリースクールネモ」を運営してきた。2003年に設立され、これまで20年の実践知が組織に蓄積されている。また、補助制度などの活用により、経済的に余裕がない家庭もつながれるフリースクールとなるための取り組みも強化してきた。
組織の運営体制が変わり、組織の基盤強化を行うタイミングとなっている。この助成により、多くの人たちが利用できる仕組みを構築し、持続的な運営ができる体制ができることを期待したい。
助成事業テーマ「不登校児童・生徒の『受容』から『成長』まで伴走し、地域と連携したフリースクール事業」
Sinceは、大学教育学部の卒業生が立ち上げた団体で、フリースクールや夜間の子どもの居場所運営、訪問支援を行っている。設立3年目の団体ではあるが、学校と連携し、保護者とも連絡をとりながら、個別支援計画を作成していたり、フリースクール出席が学校出席にカウントされるなど、信頼を得て活動が行われている。県内の他のフリースクールとのつながりも持って活動されている。地元の近江八幡市在住の児童生徒には、フリースクールの利用費補助を行っている点は、地域の特徴である。
今回の助成事業では、古民家を活用した週5日のフリースクール開催で、子ども個々のペースに合わせた学習支援、体験活動を行う。その中で、子どもの自己肯定感の向上と、子どもが地域の人と関わる機会をつくることで不登校児童生徒への理解促進も意図されている。 若者自身が団体運営していることが、子どもにとってのロールモデルになることが期待でき、アンケートや学会などで、活動の効果を検証し、不登校児童生徒の支援拡充につなげようとする姿勢も評価した。
助成事業テーマ「若者が自分たちで運営する居場所カフェ事業」
申請事業は、孤独・孤立状態にある若者向けの居場所スペースにおいて、併設するカフェ運営に参画する等して、「仲間とつながること」「小さな仕事を通した出番」を創出することをめざす事業である。審査においては、「支援対象が若者で就労を意識した活動に特徴がある」「無理せずに社会とつながる機会を創出している」といったコメントがあった。また一方で、「アンケートを通して効果測定することは良いが、当事者評価になるのではないか」「ファシリテーションが必要な理由が分かりにくい」「“居場所”よりも“就労支援”の要素が高いのではないか」といった懸念も出た。孤独・孤立状態にある若者が、社会とつながることを通して社会参画を促し、就労支援だけを目的とするのではなく、社会とのかかわりに希望を抱ける居場所として、安心できる仲間と出会える居場所として、丁寧に活動を展開することを期待している。
助成事業テーマ「隠れた不登校・ひきこもり支援事業」
「よりみち」では、ひきこもりや不登校の若者本人と家族を支援している。ひきこもりの背景には、子ども期の不登校やメンタルヘルスの不調があることも少なくないが、本人や家族に困り感がない場合は支援につながりにくい現状がある。そのようななか、「よりみち」では、本人や家族にひきこもりという認識がない場合でもアクセスしやすいように工夫し、被援助者を「癒されたい人」と捉え、「癒しの図書館」を常設している。一方で、スタッフには社会福祉士や保健師が関わり、専門性が担保された支援も可能となっている。近年の8050問題にみられるように、さまざまな事情で家族が抱え込まなければならない状況に対し、専門職、ボランティア、地域住民が、こうした居場所を起点・接点として本人や家族とかかわりを持つことは、今後の地域共生社会のモデルになりうるのではないだろうか。
助成事業テーマ「『フリースペースじゆうだ』の継続事業」
障がいのある子ども、対人関係などで困っている子どもなど、「困り感」を抱える子どものためのフリースペース(居場所)の継続と、「困り感」を抱える子どもの保護者の負担を軽減できる居場所としての子ども食堂の開催、多世代が交流できる居場所といった、これまでの活動を発展させることを目的としたのが本事業である。
審査において「フリースペースの開所日を増やすことの効果検証を期待したい」「困り感のある子どもの対応にこれまで取り組んできた実績は大きい」といったコメントがあった。一方で「すでに実施している福祉サービス事業との区分、連携が見えづらい」「他団体と比較すると財政規模が大きく優先度は高くないのでは」といった懸念も示された。
現行の福祉サービスは福祉サービスとして実施しつつ、無料で利用できる居場所としての機能を明確にし、より多くの方が安心して利用できる居場所をつくっていくことを期待している。
助成事業テーマ「子どものサードプレイス『おかざキッズ』」
ブエンカミーノは、2011年に共同生活と農業を主とする若者自立支援事業を目的に設立された団体で、2022年には「地域交流フリースペースOKAZAKI」を開所し、居場所事業を通じた地域の多世代交流や孤立防止事業を展開している。
今回の助成事業では、そのフリースペースと、日中の居場所を持たない子どもたちが安全・安心に自分らしく過ごせる「子どもサードプレイスおかざキッズ」を運営する。イベントを通じた交流事業では、乳幼児期から高齢者までの多世代交流を促進し、子どもや若者も活動の担い手として活動に参加することで自身の成長を促す。すでに地域からの信頼が得られている団体であり、またコミュニティづくりの実績があるため、今後の包括的なコミュニティづくりの一歩だと考える。本助成により、さらなる多世代間交流を促進し、子どもと若者が地域の中に「居場所」を見つけ、地域の一員として過ごし、成長することを期待したい。