【開催報告】パブリック・フォーラム 「地域再生に挑戦するアメリカと日本のイノベーターたち」その1

日時:2018年10月29日(月)13:00~17:00(12:30開場)
主催:特定非営利活動法人日本NPOセンター、共催:Japan Society
フォーラム 協賛:米国大使館、協力:聖心女子大学グローバル共生研究所
プログラム 後援:独立行政法人国際交流基金 日米センター、Mitsubishi Corporation (Americas)、R&R Consulting、ANAホールディングス株式会社、United Airlines


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あいさつセッション1セッション2セッション3
動画 (YouTube):あいさつ | セッション1 | セッション2 | セッション3
※編集協力:多田衣里(京丹波町情報センター)

報告の詳細版(PDF:2.8MB)は、こちらでお読みいただけます。


以下、パプリック・フォーラム(日英同時通訳)での要約を紹介する。(一部敬称略)

米国大使館 メリンダ・パベック さん
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まずフォーラムに先立って、冒頭に、日本NPOセンター代表理事の萩原なつ子より挨拶があり、続いて、本フォーラムの協賛団体である米国大使館のサイエンス・イノベーション・開発のディレクターであるメリンダ・パベックさんからの挨拶があった。
そして挨拶の最後として、本プログラムのアメリカ側のパートナーである米国ジャパン・ソサエティのイノベーターズ・ネットワークのディレクターのベティ・ボーデンより、本プログラムの説明があった。

セッション1:アメリカの農村地域で地域再生に取り組むイノベーターからの活動紹介

まずアメリカ側5名からそれぞれ発表があり、発表後の合間に、昨年アメリカの現場を訪問した日本側イノベーターからコメントや質問があった。産業の衰退、人口減少、高齢化。日米で共通する地域課題は多い。今回、「食」と「参加」がキーワードとして浮かび上がった。これらに対して米国のイノベーターたちはどう問題をとらえ、地域の活性化に向けた取り組みを行っているのだろうか。以下、そのポイントを紹介する。

エナジャイズ・クリントン・カウンティ 共同創設者/クリントン郡地域計画委員会 代表
テイラー・スタッカートさん
オハイオ州ウィルミントン
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オハイオ州クリントン郡の人口は約42,000人。ウィルミントンの人口は約12,000人。かつて町の中心を担っていた大企業(DHL社)のトップダウンによる急な撤退により1万人が職を失うという経済危機が起こりました。エナジャイズ・クリントン・カウンティは2008年に設立。危機に対する脆弱性からの学んだこと(復旧力を高めること)によって活動を行っている。地域の一企業ではなく、多様なパートナーと協働していくということが重要で、地域の起業家と小企業をコミュニティに紐づけ、トップダウンではなく、コミュニティ・メンバー参加によるエンパワーメントが大切だと思っている。

活動のためには、常にデータの収集・分析を行うことで、問題を指摘できるようになる。またデータ分析から、ステークホルダーを巻き込んださまざまなプロジェクトを行っている。そのエンゲージメント(参画)によって自分で責任を負うという意識が高まっていくのだ。

メイデイ・コンサルティング&デザイン 代表
サバンナ・ライオンズさん
ウェストバージニア州ハンチントン
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主に本拠地であるウェストバージニア州アパラチア地方での農村の地域・経済発展の専門家で、現在数多くのプロジェクトのコンサルティングを行っている。ウェストバージニア州は全米でもっとも貧しい州のひとつで、かつては石炭産業で繁栄した地域だが、産業の衰退により、4人に1人が貧困生活を送っている。

私はワシントンDC出身で、ハーバード大学卒業。国際開発分野の職に興味を持ったが、米国東部の繁栄の陰でアパラチアのような地方が犠牲を払っているのではないかと考え、コーディネーターとして働き始めた。ウェストバージニア州のファイエット郡(人口25,000人)に移住したが、都会で食べていたような新鮮な野菜を見つけられなかったため、ファーマーズマーケットを始める手助けをした。産業発展のための支援やアドボカシー支援といった仕組みや、農業技術の支援のためのプログラムや、フードハブ、マーケティングの手助けや、コミュニティカレッジと連携した次世代育成プログラムも設立。

社会起業家は、社会にポジティブな変化を起こすために存在する。起業家にどういったチャンスを提供し、また市民社会を強化するサービスをどう確立・維持していくかが問われている。また地元の食料市場における関係構築の重要性もある。地元の物を売るだけではなく、祭りやイベントを開催して消費者との繋がりを大事だ。都市と地方、生産者と消費者を繋げていくこや、今回の日本での訪問で国際的な繋がりも大事であることを感じた。


日本イノベーターからのコメント・質問と米国イノベーターの返答①

昨年訪米した日本側イノベーターを交え、昨年の訪問での気づきや、登壇者の発表内容への感想・質問などを話してもらった。

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田村:テイラーの活動でユニークなのは、DHL社が撤退した後、地域のお金がどう漏れているのかなどデータでしっかり分析して打ち手を打ったり、いろいろなプログラムもデータにもとづいて行ったことが印象的だった。フェローシッププログラムを使い、のちに地元議員になった人と会った。

テイラー:夏休みの間、地元に戻ってくる大学生に対して地元コミュニティで働ける環境をつくりたいと思い、フェローシップ(インターンシップ)プログラムを2008年に開始した。地元の企業と話し、SNSなどのオンライン戦略やマーケティングリサーチを行ってもらい、若者と小さな企業をつないだ。例えばプログラムを介して英語専攻の学生を地元の出版社にマッチングした。彼女は最終的にそこで働き、その後、市議会議員になった。(先週出産した。)ニューヨークではなく、クリントン郡に留まって成功した女性の一例だ。

林:日本では「よそ者、若者、ばか者」と良く言われるが、サバンナはハーバード大学出身で、政策提言プロジェクトも行っているが、キャリアがありつつ、敢えて地域に入った理由を教えて欲しい。

サバンナ:私は大学で環境科学と政策を学んだが、ブラジルに行って農家の人たちと持続可能な農業の形や価値体系について話したりして、持続可能な地方の実践に関わるのは自然な流れだった。ウェストバージニアはワシントンDCの「忘れられた裏庭」と呼ばれている。ブラジルでの経験もあって、こういった運動は草の根で始めなければいけないという強い責任を感じた。

ネブラスカ大学 農村未来研究所 所長代行
コニー・ライマーズ-ヒルドさん
ネブラスカ州リンカーン
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農村未来研究所があるネブラスカ州は、アメリカの中央に位置し、人口約200万人で、多くは州東部に集まっている。研究所では、水などの世界的な課題への対応、幼児教育、セキュリティなどの問題を扱い、日本を始めとする訪問者受け入れも行っている。未来研究者は、過去だけではなく、これから生まれる未来に対応する力といった戦略的な洞察を必要とする。どの道のりを歩み、どういうビジョンを描くのかは私たちが決めるのだ。

農村未来研究所では、課題への対応だけでなく、そこに可能性があると考える。不確定要素の多い時代における持続可能性には、地域が協働していくことが重要。これを実現するために、ネブラスカ大学のさまざまな分校の教員や学生、地域コミュニティの資源をまとめ、参画(エンゲージメント)を高め、これらの才能(タレント)を活用するといった巻き込みを通じた戦略的なモデルを構築している。

アメリカの農村部は激変している。1910年に農村部の人口は54.4%だったが、2010年には19.4%まで落ち込んだ。一方で技術面での躍進があった。科学の飛躍的な進歩による技術や人間性への影響が人口の高齢化にどういった可能性があるのかを探求する必要も出てきている。私たちは世界的な活動を行いたいと思っているので、皆さんにも、この議論に参加してもらいたい。

農村問題センター 政策プログラム ディレクター
ジョナサン・ヒラディックさん
ネブラスカ州ライオンズ
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1973年に貧困問題を解決するために設立された農村問題センター(以下、センター)は、草の根組織でありながら、中西部だけでなく政策問題では全米をカバーしている。地域に活力をもたらし、それを維持していくためには、責任、良心、進歩、機会、包含、行動、当事者意識、統制、公平、責務が大事になる。センターでは多くの活動を行っている。起業家精神をもった移民が小規模ビジネスを行うための技術支援や融資、退役軍人への農業支援や、地元高校との地域の食の促進、クリーン・エネルギーの推奨など。農業関連の補助金の拡充や整備といった農業法案関連の活動にも力を入れている。アドボカシー活動では、実際に政治家と行ったり、地元のステークホルダーと協力してロビー活動を行うこともある。

コミュニティの一人ひとりが、きちんと政策を理解していないと効果的なロビー活動ができないので、アウトリーチや教育活動も行っている。法案の影響について調査したり、データをもとにコミュニティに情報提供したりもする。それは強い家族関係、豊かなビジネスがあるコミュニティ構築といった地域に活力を取り戻したいという、自分たちのミッションに基づくものだ。活力があるコミュニティとは、強い市民社会があるということ。一人ひとりの夢を叶えるような地域を実現したいと思っている。

日本イノベーターからのコメント・質問と米国イノベーターの返答②

関原:コニーの研究所には「未来」という用語が使われている。日本の農山村施策は、「過疎地は病気であり、治療しなくてはいけない」という考え方で、ポジティブな未来という文脈で語られることはまれ。

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コニー:農村未来研究所が戦略的な未来に焦点を当てているのは、そういった世間の消極性があるから。地域には、自然といった美しさがある。今回、新潟で地域の食を楽しんだり、高齢者のお茶会サロンでお茶を入れてもらったが、そこでは互いを思いやる心を感じた。私たちは地域の美しさを声に出す必要がある。農村未来研究所では、世界的な文脈におけるポジティブな物語(ナラティブ)を伝えたい。

ジョナサン:今回の日本滞在で、地域に移住した若い世代がコミュニティの形を変えていく可能性を感じた。リーダーシップや教育が大切になるが、若い人はそれを推進する力を持っていると思う。

関原:日本では大学生が過疎地に行くボランティアがあるが、彼ら・彼女らは「田舎は可哀そうだから助けにきました」と言う。こちらは「助けてくれ」とは頼んでいない。私はこれを「理由なき同情」と呼んでいるが、怖いことに、この「都市目線」が日本で蔓延している。

ジョナサン:アイディアだけでは地域は変わらない。私たち地方の人間は誇りを持っている。地域のニーズをしっかり理解して、一緒に取り組まなければ時間の無駄になる。地方には生活の質、経済的発展の潜在力といった機会がある。日本には長い歴史と文化があり、文化は農村や地方から生まれるものが多い。文化を保存することは、地方を保存することと同じだと思う。

コニー:ネガティブなステレオタイプはアメリカにもある。ネブラスカでも中心部の都市オマハの住民は、自分たちをそこまで地方の人間ではないと思っているし、東海岸や西海岸の人たちはネブラスカ州自体を田舎だと思っている。ただ人口300人の村に住む私の父親は、「私たちは誰の救済も必要としていない」と言った。多くの人がアメリカの歴史の多くは地方から生まれ、経済の基幹は地方が支えていることを忘れている。いろいろな活動を通じて都市と地方をつなげ、コミュニケーションを深めることで、誤解をなくし、より良いシステムをつくっていくことが大事ではないか。

スローフードUSA代表
リチャード・マッカーシーさん
ニューヨーク州ブルックリン
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 いま世界中でオルタナティブな世界観が出現している。これは大都市から発せられる規模や効率性といった横柄さに対抗する動きだ。世界でファストフード(手軽で即席料理)が広がる中、私たちはその反意語であるスローフードを提唱し、世界を変えるべく活動を開始。設立者は「世界を変えたいのであれば、悲しみではなく喜びをもって変えるべきだ!」と言った。こういった喜びは、食によって作り出される。私たちのミッションは、「おいしく(Good)、きれい(Clean)で、正しい(Fair)食べ物をすべての人に提供することで、個人に気づきを与え、世界を変えるということ。

伝統と革新(イノベーション)の間には、新しい緊張感が生み出される。ファーマーズマーケットなどが都市と農村の接点を作り出したり、農村の商品を都市に持っていったり、逆に都市の製品が農村に動いていく。商品だけでなく、体験の重要性にも注目している。消滅危機にある農村へのスロートラベルを実施しているが、参加者は農村で食や村人との体験を通じ、愛着が生まれ、ファンになる。そのことでその地を再訪したり、その土地のストーリーを語れるようになる。

人は災害時に職や人を失うなど、いろいろなトラウマを体験するが、災害は人間は何なのかを考え直させ、希望を生みだす機会にもなっている。10年前の三宅島噴火後、4年間全島避難になった。島民はもう島には住めないと思っていたが、島の一部で「明日葉(アシタバ)」が生え始めた。文字通り明日という未来を信じるというシンボルになった。また私たちの社会が直面する課題の一つに「搾取する経済」があるが、私たちのミッションは、人・経済を「再生・生成する」ことにある。

日本イノベーターからのコメント・質問と米国イノベーターの返答③
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江守:リチャードは、私たち「食べる通信」のように、消費者と生産者の分断を解消させる活動を行ってきた大先輩。我々は、食べ物を届けるだけではなく、消費者の価値観をどう変えるかに悩んでいるが、スローフードの活動では、それにどう向き合ってきたのか。

リチャード:食べ物には燃料以上の価値がある。食べ物は人を繋げ、幸福にする。食は文化でもあり、その土地に住む理由でもある。スローフードは、ファストフードがもたらす孤独感などを変えつつある。「食べる通信」の素晴らしさは、記事の質の高さとユニークさ、人が関与したくなるようなメッセージや生産者のストーリーを通して関係性を構築することだ。


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あいさつセッション1セッション2セッション3
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