市民セクター全国会議2018
■日時 2018年11月22日(木)・23日(金・祝)
■会場 聖心女子大学 4号館/聖心グローバルプラザ(〒150-8938 東京都渋谷区広尾4-2-24)
11月22日(1日目) オープニング │ [セッション1]分科会1~5 │ [セッション2]分科会6~10
11月23日(2日目)[セッション3]分科会11~15 │ 全体セッション・クロージング
1日目(11月22日)
オープニング 11月22日 10:30〜12:00
分科会[セッション1] 11月22日 13:00〜15:00
SDGs時代におけるNPOと企業の協働 ~一歩先へ~
SDGs時代を迎え、企業は、より一層持続可能な社会の実現を目指すようになりました。その実現のひとつの方策として、NPOとのパートナーシップが重要視されています。企業側として、NPOの先駆性や開拓性への期待が高まる一方で、ガバナンスの強化による情報開示・透明性・相互の理解などの要求も高まっています。企業との協働を目指すNPOも増え、社会的な価値の創造のために、企業とNPOの発展的な協働の関係について新たな発見を探ります。
[スピーカー]
大川 哲郎さん (株式会社大川印刷 代表取締役)
竹内 ゆみ子さん(特定非営利活動法人まちづくりスポット 代表理事)
東郷 琴子さん (パナソニック株式会社ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部 事業推進課 主幹)
[コーディネーター]
金田 晃一さん (株式会社NTTデータ総務部 社会貢献推進室 シニア・スペシャリスト/前・特定非営利活動法人日本NPOセンター 理事)
新田 英理子 (特定非営利活動法人日本NPOセンター 特別研究員)
開催報告:一歩先のNPOと企業の協働とは・・・各取り組み毎に一枚岩になって、目的・目標を目指そう!
地域密着型企業の大川さん(株式会社大川印刷)、グローバル企業の東郷さん(パナソニック株式会社)、そして、中山間地域と呼ばれている地域で国際貢献活動から地域活動まで行い、地域の拠点を企業と協働でつくりあげている竹内さん(特定非営利活動法人まちづくりスポット)から、それぞれの立ち位置で、これまでの取り組みと今後に向けた課題認識と目標をお話いただき、多様な幅でSDGs時代の協働のあり方を考えるための事例とヒントを提供頂きました。またコーディネーター金田さんから参加者に向けて「みなさんが目指す協働の形はどれに当たりますか?」との考える起点と要素も提示され、会場の参加者の皆さまからの協働に関わる質問票をもとに質疑応答を行いました。
前半、コーディネーターの金田さんより「CSR関連用語の包括的理解モデル」「企業のCSR活動に対するNPOの関与ポイント」「信頼構築のPDCAサイクル」といった考える視点と枠組みが提示されました。(参照PDF1)
つづいて多様な取り組み事例として、大川さんからSDGs達成期限2030年を見据えた社会構造変化に、地域中小企業が地域と共に存在をし続けていくには、SDGsを経営に実装する「SDGs経営計画」は不可分である。そのためには、地域企業と行政とNPOの協働が欠かせない。そのために、社員一人一人の意識改革が重要であると、経営者だからこそ、進められる具体的な事柄について説明いただきました。
東郷さんからは、中間支援NPOと協働してNPOの組織基盤強化支援を行うことで社会の発展を目指す100周年を迎えた企業として「事業を通じて社会の発展に貢献する」という揺るぎない経営理念のもと、企業市民活動におけるNPOとの協働の取り組みについて説明いただきました。具体的なプログラムの特徴として、社員発案でNPOの組織基盤強化への支援を行う(10年以上の実績)ことを中間支援NPOと協働することで実効性を高め、社会の発展に貢献されています。
そして、竹内さんからは、ご自身のNPOとして国際協力で長年インドの村を支援し学び気付かされたことの蓄積をもとに、形だけの協働にしないために、地域進出を考えている企業と対等な話し合いを1年以上続け、企業という組織ではなく、企業の担当者とNPOの担当者が共通の目的に向かって、本気で一枚岩になったときに、はじめて地域全体も巻き込む協働になったという説明をいただきました。
これらの3人のお話を受け、後半は参加者に記入いただいた質問票をもとに質疑応答を行いました。質問では、「SDGs時代」以前と以降と比べて、企業とNPOのあり方、理想の状態は変わりつつあるのか?どんな変化が生まれているのか?その時、NPOに求めることとは?NPOと企業との協働のきっかけは?相互の大切な対話の中身とは?活動を支える資金確保と活動評価は?企業内での経営層と従業員の意識レベルの共有方法は?などについて登壇者から回答がなされました。
改めてコーディネーターの金田さんから、「企業のCSR活動に対するNPOの関与ポイント」として社会貢献と企業のかかわり方が提示され、また、新田さんからは、SDGs時代の協働、以前/以後について整理を試みました。(参照PDF2:当日口頭で返答したものを整理)
最後に登壇者とコーディネーターの全員から、それぞれが目指す「一歩先へ」を発表いただき締めくくりとしました。
・大川さん 「このままだと世界は続かない=企業もNPOも市民もそもそもつづかない」だからこそ、新たなパートナーシップのはじまり。
・東郷さん 「社員の社会参加×NPO」 ⇒ 事業活動でのNPOとの協働へ
・竹内さん 「志は高く、しかし課題、目標は小さく、一歩ずつ」
・金田さん 「テクノロジーの活用」と「イノベーション(新しい発想)」
・新田さん 「つなぐ組織がないとダメ ⇒ あったらいいね。くらいで。」
評価がNPOの力になる ~地域から見つめ直す評価の原点~
市民セクターに起こり始めた本格的な「評価」の波。とにかくやらなければならないようだという、不安な思いや焦る気持ちだけでは、この波に飲み込まれてしまいます。日本NPOセンターはこれまで、個々のNPOが手法を使いこなす事だけではなく、評価がセクター全体の力となるために、評価のあり方について発信をしてきました。
そもそも私たちは誰のために、何のために、どういう評価を取り入れたいと思っているのか。この原点に立ち返りながら、「地域」の視点で取り組んできた講師と共に議論を深めます。
[スピーカー]
小池 達也さん (地域のコモンズと評価に関する研究会 準備会メンバー)
松村 幸裕子さん(特定非営利活動法人暮らしづくりネットワーク北芝 地域教育推進・子育て支援室コーディネーター/公益財団法人京都市ユースサービス協会 理事)
三好 祟弘さん (エムエム・サービス 代表/特定非営利活動法人PCM TOKYO 監事役/グローカルな仲間たち 主催)
[コーディネーター]
清水 みゆき (特定非営利活動法人日本NPOセンター スタッフ)
開催報告:「自動販売機型」の評価はない。自分たちの価値とことばを。
NPOに評価の波が押し寄せる今、「とにかく評価」ではなく、やはり「誰の/何のために?」に立ち返ることが大切です。分科会2は、地域を軸に評価のあり方を考える場でした。でも、眉間にしわを寄せながら考えるだけではつまらない。そこで登壇者たちが冒頭と最後にアフリカの楽器とギターでライブをするにぎやかな場ともなりました。
小池さんは、岐阜や愛知でNPOを支援する立場。「自分たちの地域社会を、自分たちで持続可能に運営するための、新しい担い手、知恵、仕組みを育てること」をめざして活動中です。単なるノウハウやツールではなく、問題意識や考え方をどう地域で広げるかを起点に、自分たちのことばで地域を語ることを大切にしているそうです。
そんな小池さんが評価のあり方を考えるきっかけになったのは、ある事業のSROI(社会的投資収益率)にかかわった時の違和感でした。誰のために貨幣価値に換算するのか?という疑問と「結果より過程が大切」という気づきから、仲間とともに「地域のコモンズと評価に関する研究会」を立ち上げ、討議やネットワーキングを進めています。NPOの評価は「成果」の視点から入ると、見せ方に注力してしまいがちなため、現場改善のためのマネジメント、そして社会を改善する知的創造としての評価という視点を取り入れていくことを大切にしているそうです。
住民主体の地域づくりを長年推進してきた草の根NPOの松村さんからは「地域が評価を必要とした時」をテーマにお話しいただきました。居場所づくりや就労、介護、地域通貨など、大小様々な事業を展開してきた一方で、助け合いの関係とともにそれぞれの課題や主張、利害がひしめきあっている地域社会の難しさがあります。どれだけ丁寧に進めても全員の総意を得ることは至難のわざ。大きな声が優位になったり対立が生まれやすい中で、皆が地域のデザインに納得するために打ち出したのが、実態調査や事業評価だったそう。評価を合意形成として用いた現場の実例です。
国内外で大小のプロジェクトに評価者としてかかわってきた三好さんからは、「ハートとスキル」をキーワードに評価を解説していただきました。「評価= 価値を事実に基づいて判断する」。調査が事実特定であるのに対し、評価は事実特定に加えてあらかじめ定めた基準で価値判断を下します。価値基準は、「良い事業とは何か?その基準は何か?どう測るのか?」といういわばハートと言いかえられるそう。その後にくる事実特定がスキル、価値判断がロジックということです。このハートは誰がどう決めるのか?誰が、どの範囲で、どのように合意形成をしていくのかが問われます。三好さんは自動的に結果が出てくる「自動販売機型評価」はない、ということを強調しました。
3人からの発言を受けて、会場の皆さんにそれぞれが今考えている「評価の原点やキーワード」を書きだしてもらいました。掲げられたことばは「コミュニケーション」「価値の確認」「当事者を増やすプロセス」「元気の源泉」などさまざま。価値判断について考えるミニワークショップも交えた分科会の終わりには、こうして出されたことばが最後のライブの歌詞に早変わり。実は小池さんと三好さん、仲間と一緒にバンドを組んでるミュージシャンのようです。芸達者な登壇者たちに恵まれて、とても楽しい分科会となりました。
公共施設が市民と共に取り組む場づくり
市民ひとり一人が自分らしく、生きがいをもって地域で暮らすためには、人と人、さまざまな資源がつながる場が必要です。この場をつくるのはNPOだけではありません。市民のスペースである公共施設もそのひとつであり、今この場所を舞台に市民が当事者として地域に関われるさまざまな場が生まれています。
この分科会では、地域のさまざまな公共施設で行われている場づくりをとりあげ、市民ひとり一人と地域の多様な主体が協働していくための方策を考えます。
[スピーカー]
南 信乃介さん (那覇市繁多川公民館 館長/特定非営利活動法人1万人井戸端会議 代表理事)
下吹越 かおるさん (鹿児島県指宿市立指宿図書館館長/特定非営利活動法人本と人とをつなぐ『そらまめの会』理事長)
[コーディネーター]
西川 正さん (特定非営利活動法人ハンズオン埼玉 常務理事)
開催報告:「面白がること」「何か事が起こるのを待つこと」
面白い取り組みが生まれる場には、面白い人だけではなく、面白がる人、何か事が起こることを待っている人がいる。地域内の図書館と公民館で従来の枠組みにとらわれず多彩な活動をしているスピーカーの南さん、下吹越さんのお話をうけて、コーディネーターの西川さんが分科会の最後にお話されたのがこのお話でした。
鹿児島県の指宿(いぶすき)市にある2つの公共図書館は、下吹越さんをはじめとする図書館ボランティアのメンバーで立ち上げた、本と人とをつなぐ「そらまめの会」が指定管理者として運営しています。下吹越さんたちは図書館を運営することになったとき、単に図書館サービスを提供するだけの存在ではなく、誰のための何のための図書館であるかを自分たちに問いかけ、地域住民の「声なき声を聴くこと」を自分たちの姿勢に据えました。結果指宿図書館は、お手洗いにいくお母さんのために図書館員がお子さんをだっこする取り組みや、目のみえない視覚障碍者のため電話朗読といった取り組みが生まれ、現在では養護学校、JA、地域の福祉課など、さまざまな存在から声をかけられ、頼られ、多彩な取り組みが生まれる場になりました。
沖縄県の那覇市にある8つの公民館のうち2つが、民間団体が指定管理者として運営されています。そのひとつ、繁多川(はんたがわ)公民館は、「とりあえず行ってみよう」「とりあえず来てみました」といわれることを目指し、南さんが所属する1万人井戸端会議が指定管理者として運営しています。地域住民の「やってみたい」を後押しする動きが大きく広がったのは、地域住民から歴史や文化を聞き取り、書き記す講座をはじめたことがきっかけでした。この講座参加者の間で、在来大豆を復活させ、昔ながら豆腐をつくりたいという声が生まれ、その声に呼応する形で、在来大豆を育てるために様々な知識と経験をもつ人が公民館に集まるようになったのです。
地域住民の声なき声に耳をかたむけ、図書館の枠をこえていく下吹越さん、地域に誇りを持つ人が育つ場としてさまざまな関心や興味を基点にして地域住民の後押しするしている南さんのお話は、公共施設に限らない、さまざまな人が集う場をその場にいる人たちが面白がり、試行錯誤しながらつくりあげていくものとしていきたい人にとって、多くのヒントをきける時間になりました。
休眠預金等の活用は社会課題の解決につながるか?
「休眠預金等活用制度」が2019年から始まります。市民セクターにも多額の資金が供給される可能性があり注目されている一方で、その資金をどのように扱うのか、固まっていない部分も多く残されており、私たちの向き合い方によっては負の影響も懸念されています。
この制度が市民セクターに与える影響について検討し、当事者が取り残されることなく社会課題の解決への取り組みが促進されるために、今後わたしたちはどのような点に留意すべきかを議論します。
[スピーカー]
奥田 裕之さん(特定非営利活動法人 まちぽっと 事務局長)
服部 広隆さん(NPO法人 福岡すまいの会 事務局)
藤枝 香織さん(一般社団法人 ソーシャルコーディネートかながわ 副理事長)
[コーディネーター]
実吉 威さん(認定特定非営利活動法人市民活動センター神戸 事務局長/公益財団法人ひょうごコミュニティ財団代表理事)
開催報告:休眠預金とは誰のための制度か、どのように向き合えばよいのか
2019年からスタートする休眠預金活動制度は、多額の資金をどのように扱うのか、まだ決まっていない部分が多く残されています。この分科会では、市民セクターに与える影響を考え、当事者が取り残されることなく、社会課題の解決への取り組みが促進されるためには、私たちが留意すべき点は何かについて議論しました。
はじめに、実吉さんが制度の概要について解説をした後、奥田さん、服部さん、藤枝さんからそれぞれの現場から見た制度に対する問題意識についてお話をいただきました。奥田さんからは、「ビジネス手法を強調した活動への指向性が強い」「基本方針の曖昧さ」、「社会的インパクト評価の不適合さ」、「指定活用団体への権限の過度な集中」などについての問題点が指摘されました。服部さんからは、「現場のNPO、資金分配団体、指定活用団体の関係が、関係構造次第では支配的になる可能性がある」、「評価基準が置き去り社会を生む」などの懸念点が示されました。藤枝さんからは、これまでの団体に対する伴走支援の経験から「短期で支援の成果をみることの難しさ」、「ゆっくり育っていく団体や、身の丈にあった長く続く団体の存在意義」、「休眠預金とともに入ってくるであろう伴走支援者についても考える必要がある」などの指摘がありました。
会場参加者との質疑と意見交換では、「休眠預金について知らない人が多い」、「各地域でどのような受け皿を作っていくべきか」、「これから出来ることの余地はあるのだろうか」、「社会的インパクト評価には重圧を感じている」、「法の見直しの時期はいつになるのか」など、多数の質問や意見が出されました。
これまで「現場視点で休眠預金を考える会」が、さまざまな機会を捉えて政策提言を行ってきましたが、この分科会では「多くの関係者に会に参画していただき、指定活用団体と審議会を客観的にウォッチし続け、民間側の動きを作っていく必要がある」ということが確認されました。
NPOと地域コミュニティ ~地域のくらしを支えるこれからの連携~
地域コミュニティには、地縁組織、社会福祉協議会、NPOなどがそれぞれの取り組みをし、お互いに連携や協力しての活動も各地で始まっています。現在、地域課題の多様化や個別化などが進み、課題解決のための豊かな力として期待されます。「地域のくらし」を真ん中に置いたとき、NPOによる従来の制度で対応されない領域に目を向けた取り組みと、社会福祉協議会による制度運用に留まらない地域課題解決の取り組みを通して議論します。
[スピーカー]
四戸 泰明さん(特定非営利活動法人 なんぶねっと 理事長)
小柴 徳明さん(社会福祉法人 黒部市社会福祉協議会 経営戦略係長)
[コーディネーター]
古賀 桃子さん(特定非営利活動法人ふくおかNPOセンター代表/特定非営利活動法人日本NPOセンター理事)
開催報告:お互いに理解しあい、みんながHappy、みんなでHappy!
分科会5では「地域のくらしを支えるこれからの連携」をテーマに赤い羽根福祉基金の協賛を得て実施しました。四戸さん(なんぶねっと)、小柴さん(黒部市社協)からは、少子高齢化が進む地域における連携事例を紹介していただき、その後グループワークを行いました。
四戸さんからは、青森県の南部町における従来の制度では対応されない領域に目を向けた活動について紹介がありました。小さな町で高齢化も進むなか、「地域における人材不足を地域の人の力で」カバーするために子どもから高齢者までが支援者になれるような取り組みをしています。それをより強固にするためにも近隣市町村を巻き込んだボランティアネットワークづくりにも取り組んでいます。
小柴さんからは、富山県黒部市全域での包括的な見守り体制「くろべネット」についての紹介がありました。支援者も要支援者もHappyになるために縦割り的支援からみんなの力で包括的な支援に変えようという動きをしています。参加者から自治会とはどう関わっているのか?と問われると、「自治会によってニーズが違う。非常に手間はかかるが、自治会のニーズにあった問題を調整して臨機応変に対応をしている」と小柴さんは言います。
コーディネーターの古賀さんの進行でグループワークが行われ、事例発表を聞いて「とはいえ、ここがムズカシイ」をテーマに話し合いを行いました。ワークでは「地縁組織のキーパソンへのアプローチの仕方がわからない」「NPOと地縁組織の相互理解不足」「価値観常識が障壁になる」などの意見がありました。 まとめとして、「一人一人の声に耳を傾けてニーズに応えられるのがNPO」、「行政はどうしたいか、NPOがどうしたいかを考え、相手がどうなったら喜んでもらえるかを考えて動く」、「個人ではなく、組織のニーズをキャッチする。そのためには足をつかって情報を稼ぐ」というコメントで終了しました。
分科会[セッション2] 11月22日 15:30〜17:30
多様な人々を受け止め支え合う地域 ~地域の「課題」を地域の「力」へ転換する~
社会全体の変化に伴い、日本社会は“多様な”、そして“新たな”課題に直面しているといえます。課題を抱えている人もそうでない人も、あらゆる人が受け入れ合い、支え/支えてもらいながら共に生きる社会を、地域社会においてどう実現できるかが重要です。さらに、いわゆる「課題」や「困りごと」が、逆に地域の助け合いの力が引き出されるきっかけとなるなど、プラスへの転換を起こすためにNPOはどう関わることができるか、実践から考えます。
[スピーカー]
桜井 野亜さん(福島避難者のつどい 沖縄じゃんがら会 代表)
梅原 麗子さん(福知山市福祉保健部子ども政策室 南佳屋野児童館 館長)
東家 零子さん(特定非営利活動法人 京都丹波・丹後ネットワーク)
[コーディネーター]
星野 智子さん
(一般社団法人環境パートナーシップ会議 副代表理事/一般社団法人 SDGs市民社会ネットワーク 業務執行理事/特定非営利活動法人日本NPOセンター 理事)
開催報告:プラスの力への転換
この分科会では、地域課題や困りごとが、地域の相互扶助の力が引き出されるきっかけとなる、つまりプラスの流れへの転換が生まれることにNPOをはじめ市民活動がどのような触媒的な関わりをすることができるかを考えました。
梅原さん、東家さんからは、外国にルーツを持つ家族と地域の相互理解が生み出されている取り組みについてお話いただきました。京都府福知山市には人口の1%を超える外国人が住んでいます。地域や親たちの外国籍の住民に対する無理解、無関心から子どもたちの中でも差別が生まれている、これは地域の問題でもあるのではないかと考え、児童館とNPOとがお互いの強みを持ち寄ることで支援活動が始まりました。
自治会、民生児童委員、学校、児童相談所など、多様な主体・人を巻き込み、子どもだけではなく、その周りも見て支援体制を築いていきました。いまでは、異文化の人たちは地域の新しい風であり、誰もが当たり前に暮らせる「小さな地球村」という意識が地域に芽生えてきているそうです。
続いて桜井さんからは、東日本大震災の避難者として自らも沖縄に避難する中で、孤立したり、自殺する人がいることにショックを受け、社会福祉協議会をはじめとした地域との連携による避難者支援ネットワークづくりに取り組んだ経緯についてお伺いしました。
地域の人たちに避難者の問題を我が事化してもらうために、交流会などのコミュニティづくりをおこなったり、ボランティアとして避難者訪問活動に参加してもらったりする中で、地域で支える仕組みが生まれてきたそうです。当初、広域避難者のためにやっていたことが、地域全体のためになっていることに気づいてからは連携もより拡大していったようです。
パネルディスカッションでは、二つのテーマで議論しました。「多様な人を受け止められる地域」とはどんな姿かという点では、福知山のケースでは、NPOが主体になって地域のキーマンと問題とをつなぐことによって、地域の人が協力してくれるようになったとのことで、やはりキーパーソンや核となる団体の存在は大きいことが共有されました。
「地域の『困りごと』から地域の『力』へのプラスの転換」をどう作るかという点では、「一つの課題を入口に地域課題を掘り下げる、地域にある資源をもう一度見直してみる」「地域にいる利害関係者の関心内容を共有して、共通する将来像を描く」「今までの自分のテーマや課題では出会わなかった人たちとの出会い、気づきを意識する」の3つがキーワードとして挙げられました。
市民社会スペースを押し広げる取り組みを知る
市民セクターの基盤として、市民が自由に発言・活動できる領域(=市民社会スペース)が保障されていることが重要ですが、世界各国でこの領域が縮小しています。日本での縮小は、直接的な力によるものとは違った形で進行していますが、市民セクター全体にかかわる大きな問題だという認識があまり見られません。本分科会では、市民社会スペースの概念整理を行い、この問題がNPO・市民活動にどのように立ち現れ、どう影響を与えているのか、この領域を擁護し、押し広げるためにできることは何なのかを考えます。
[スピーカー]
大西 連さん(特定非営利活動法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長)
林 美帆さん(公益財団法人 公害地域再生センター(あおぞら財団) 研究員)
谷山 博史さん
(市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)共同代表理事/特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)理事長/特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター(JVC)理事)
[コーディネーター]
今田 克司(特定非営利活動法人日本NPOセンター 副代表理事)
開催報告:市民社会スペースの縮小の現在と日本的な表れ
市民社会スペースNGOアクションネットワーク (NANCis)の企画協力によって実施した分科会7。冒頭にコーディネーターの今田より、市民社会スペースの概念整理がありました。2000年初頭から世界各地で市民社会スペースの制限が始まり、日本での関心は低かったが今は高まりつつあること、また世界的には、制限する公的な主体に対する市民側の権利の主張という対立の構図があるが、政府や公的機関とNPOの対立をあまり前提としない日本では違和感があるかもしれないが、日本的な文脈を理解しつつ、日本の市民社会スペースの議論をすべきと提示されました。
それを受け谷山さんからは、長年の国際協力の現場経験を踏まえて、市民社会スペースの狭隘化に関する国際的な事例と共に、日本もそれらと連動していることが紹介されました。日本の市民社会組織の自由も制限されつつあるのではないか、その表れとして、「政治的な」活動をタブー視したり、市民活動団体も忖度や自己規制によって自縄自縛に陥っているといった現象が見られるのではないかと谷山さんは語りました。
林さんからは、国内の公害反対運動という観点から発表がありました。参加者からは「市民社会スペースの狭まりを実感するか」の質問に対し手があがらなかったことを受け、あおぞら財団が支援してきた人々はそもそも「消された存在」だという自己紹介。四大公害は注目されたが、東京近郊や大阪で起こった公害や患者については、情報が行き渡っておらず、その「見える化」が自分たちの運動だと語りました。西淀川公害裁判の結果、それまで加害者だった企業も地域再生のために資金提供するようになったが、企業・行政と市民との対等な関係性づくり、立場の違う人たちが意見を交わし、互いの合意点を探っていくための場づくりが重要だと語りました。
大西さんからは、提言や資金面から市民社会スペースを考えるプレゼンテーションがありました。国内の貧困問題の取り組みは排除ではなく包摂を目指してきたが、貧困が社会問題となり制度化が進められた結果、包摂の理念が忘れられていないか、制度の中から改善しようとする主体が行政に統合され、制度の外で問題を可視化しようと考えている主体との分断が起きていると指摘しました。資金面での市民活動の独立性にも言及し、たとえば生活困窮者自立支援制度下の委託事業における職員給与額は、提供される価値の対価としては不十分で、「福祉の市場化」に伴う弊害は起き始めていると指摘。財源面での市民社会の独立性をどう維持するのかが重要だと訴えました。今田からは、制度の内外の分断について、その中にいる人と外にいる人両方の存在と、中の人が外の人を応援できることが運動として重要だとコメントしました。
その後、参加者からいくつかコメントや感想が出ました。ある参加者は、大西さんが触れた渋谷でのホームレス立ち退き問題について、自分たちの世代が行った支援は、同時に排除も招いてしまったかもしれないと語り、行政委託を受けている参加者からは、スタッフが人質に取られているのではないか、制度の外から物申す人たちと一緒にやりたいと語りました。一方で日本のNPOが政治的中立を求められる背景には、世界で類を見ないほど厳しい公職選挙法の存在や、NPO法に政治活動(=政党活動)の禁止条項があることに対する指摘もありました。
ICTの力で市民がつくる新たなコミュニティの可能性
自分たちの生活の困りごとや地域の課題に問題意識をもった市民がITの力でつながり、新たなコミュニティをつくりだしています。地域の中の住民とNPO、地域や国籍を超えてコミュニティをつくり育てるためには、どんな人材や実践が必要でしょうか。この分科会ではコミュニティ形成を推進する取り組みの紹介や生活の困りごとや地域の課題に問題意識をもった市民がITの力でつながることを疑似体験するワークショップを中心に展開します。
[スピーカー]
ダン・カステラーノ(Dan Castellano)さん (Facebook Japan)
榎本 真美さん (Code for CAT)
関 治之さん(一般社団法人 コード・フォー・ジャパン 代表理事)
開催報告: Coming soon…
社会に新しい価値を生み出す資金提供
休眠預金の活用実施などをめぐる大きな動きがある一方で、民間の志をもった民間資金の特色や独自性はどういったところにあるのでしょうか。たとえば、資金の出し手と受け手の対話と協議を通した非公募・計画型の支援や、長期的な視野に立ったうえでの継続的な支援、「臨機に、迅速に、柔軟に」対応できる支援金などがあげられます。
この分科会では、NPOの課題解決志向が強まる中、新たな価値創出につながる資金の可能性や、広い視野と長期的な視点に立って「市民社会」を育んでいくための資金的な支援のあり方について、特徴のある民間資金の事例紹介等を交えながら皆様と考えていきます。
[基調講演]
片山 正夫さん(公益財団法人 セゾン文化財団 理事長)
[スピーカー]
北村 智子さん(一般財団法人おおさか創造千島財団 常務理事)
大野 満さん (公益財団法人トヨタ財団 事務局長)
原田 潔さん (日本障害フォーラム(JDF)事務局)
[コーディネーター]
渡辺 元さん (公益財団法人 助成財団センター 事務局長)
開催報告:人々の心を動かし、社会に変化をもたらす価値は、どのように見出し、支援するのか
分科会9は、公益財団法人助成財団センターさんに企画協力をいただく形で実施しました。まず、コーディネーターの渡辺さん(助成財団センター)から、この分科会の趣旨について説明を行ったのち、助成をする側の立場から片山さん(セゾン文化財団)、北村さん(おおさか創造千島財団)、大野さん(トヨタ財団)、助成を受ける立場から原田さん(JDF)、さらにJDFへの助成についての補足説明を田中さん(助成財団センター)からいただき、最後に会場からの質疑応答を行いました。
渡辺さんからは、「価値」を生み出すための資金提供について考えるために、今回ご登壇いただく助成団体の定款も紹介しながら、それぞれが「新しい価値」をどのように考えるか、また、変化の兆しを先取りする取り組みを、どのような視点に立って開発、支援するかという、資金の出し手、受け手それぞれへの問いかけがありました。
片山さんからは、改めて「助成とは何か」という問いかけのもと、助成の特徴は出し手がミッションを持っていること、助成の目的は価値を創造すること、助成の命はプログラムにあり、価値を創造する助成は「配分」ではないという重要な問いかけがありました。さらに、セゾン文化財団が考える助成財団の役割についてもお話いただきました。
北村さんからは、母体企業を持つ一般財団法人という自らの特性を活かしたユニークな取り組みをご紹介いただきました。そのなかでも社会に新たな視点や価値観を提示するような「創造活動」の具体例“文化住宅のライブ工事”“注文の遅い料理店”などには、会場からも驚きの声が上がっていました。
大野さんからは、企業と関係のない分野での助成活動を大事と考えた設立者たちの言葉や、事業を支えるプログラムオフィサーの存在や役割、ニーズにあわせた助成プログラムの事例として東日本大震災への支援、財団の意思を込めた非公募の助成プログラム、助成活動とは別に実施している企業財団なればこそのNPO支援プログラムなどをご紹介いただきました。
原田さんからは、障害者の当事者団体を中心としたJDFの成り立ちと、障害者権利条約推進の取り組みを中心にお話しいただき、誰もが明日は当事者になる可能性もある状況で、これらの取り組みを、当事者性をもってともに支えようというミッションのもと、複数の助成財団による長期支援を行った経緯を田中さんから説明していただきました。NPOの連携、協働はよく耳にするテーマですが、実際に連携、協働していくことの困難さも含めたお話は、これらのテーマについても考えるヒントになったのではないでしょうか。
連携で支えあう地域医療とくらし
誰もが、自身で選んだ場所で暮らせる地域をめざし、いま、医療や福祉の専門職、地域住民、行政、NPOが様々な連携に取り組んでいます。その背景には、過疎高齢化や小児難病、在宅医療、多文化社会など、社会の変化があります。
いつでも、どこでも、だれもが、安心して暮らせる社会の実現のために、セクターを超えて連携に必要なことは何か。医療分野のNPOの先駆的な取り組み事例から学びます。
[スピーカー]
岩室 紳也さん(ヘルスプロモーション推進センター 代表)
川口 耕一さん(一般財団法人 健やか親子支援協会 専務理事)
岩元 陽子さん(特定非営利活動法人 多言語社会リソースかながわ(MICかながわ) 副理事長)
[コーディネーター]
萩原 なつ子 (特定非営利活動法人 日本NPOセンター 代表理事)
開催報告:バリアを超えていくのは市民の力〜医療を医者任せにしない~
この分科会では、3人の登壇者の方からお話を伺い、医療とNPOの連携について考えました。
まず、岩室紳也さんから基調報告をいただきました。岩室さんは医師として自ら様々な活動に関わっています。最新の広辞苑によると「医療」は「1.医術で病気を治すこと、2.医学的知識をもとに、福祉分野とも関係しつつ、病気の治療・予防あるいは健康増進をめざす 社会的活動の総体。」とあります。「医師」が大学で学ぶのは1だけ。2の概念も含む「医療」の実現のために市民が医師を資源の一つと捉え、育て、関わってほしいと訴えます。
エイズ、薬物依存、へき地医療、そして被災地の復興に関わった経験から、ソーシャルキャピタルとしての人とつながる場、安心して失敗を語れる場があること、マイノリティや犯罪歴などの生きづらさを意識することのない社会が、誰もが暮らしやすい、住みやすいまちであり、NPOでなくていいからNon-profit Movementで一人ひとりができることを、とお話がありました。
次に、岩元陽子さんから在日外国人のための医療通訳派遣のお話を伺いました。日本では、バブル時代に外国人労働者を多く受け入れましたが、医療機関は家族に通訳をさせたり、言葉の通じないまま治療を行なっていました。5年間無料で医療通訳を派遣したところ、病院がその意義を理解するようになり、コストを負担して派遣を依頼する形が定着しました。現在神奈川県下で毎日30人を派遣しています。病院の壁は大変厚いが、理解のある医療者や知事がおり、県と医師会による協力と財源が確保できたことで神奈川県での医療通訳制度が実現できました。医師は頭が固い(医師頭by岩室さん)が、病院の他の職種など誰か話ができる人がきっといます、と話され、岩室さんも、院長に話をしても現場のことは分からない。中からボトムアップで必要だと声を挙げられたことがよかったとコメントされました。
MICかながわのタイ語の医療通訳の荒井アオイさんから、「日本に来て25、6年が経ち、母国よりも長く生活するようになりました。TAWANという在日タイ人グループで活動し、医療に限らず社会に貢献できるよう相談に対応しています。今では、長野県佐久市とのタイ語医療通訳の連携が始まっています。」と紹介されました。
次に、企業との連携により小児希少難病の患児家族を支援している川口耕一さんからお話を伺いました。小児希少難病は専門医が少なく遠方への通院など、家族は大きな負担を抱えています。経済的な問題から離婚する両親も少なくありません。現在は、お母さんの就労支援につながる事業を始めようとしています。問題意識を持つこと、声を大にして言うこと、エビデンスで話すことを大事にされており、厚生労働省でも、こちらが困っていることを話すと活用されていない制度が紹介された経験もあります。
一方で、病院から検査機関などへの検体の輸送に専用のノウハウがなかったことから、プラスカーゴサービス株式会社と連携し、検体輸送サービスの事業を開始しました。医療従事者が、検体輸送に自信をもっていたが本当はできていなかった。そこから道が開けたというお話でした。同社の黒川さんによると、専門教育を受けたドライバーがコンサルティングもできることで、病院をサポートしているそうです。 岩室さんは、協働の原点は手詰まり感。医師だけで医療をやっていてもダメだとあきらめることであり、「迷惑をかけながら周りに頼って生きていくのが自立」という熊谷晋一郎さんの言葉を引いて、「連携ってそういうこと」と締めくくられました。
病院、企業、行政、業界団体などと広く連携して社会課題に取り組まれているお話を伺いましたが、偏見、差別、弱者への不公平は根強くあると3人が共通しておっしゃいました。これは私たちの社会の問題であり、市民の力とNPOの存在意義を改めて考える分科会となりました。
分科会[セッション3] 11月23日 10:00〜12:00
社会活動と評価の関係を考える ~私たちの価値は私たちが決める!~
NPOによる事業の社会的成果の可視化が期待され、一方で企業においても、投資家を意識したCSR・CSV活動の評価が進んでいます。外からの要求にいかに応答するかだけでなく、活動の価値をどう自ら社会に示していくかを考える時が来ているといえます。
ソーシャルワークにおける評価を通した成果の可視化の取り組みを踏まえ、企業における社会貢献活動の評価の潮流とNPOによる成果指標作成の実践事例をもとに、あらゆる社会活動に共通する評価との関係性、評価を通した価値創出について考えます。
[スピーカー]
大島 巌さん 日本社会事業大学 教授)
石井 正宏さん(特定非営利活動法人 パノラマ 代表理事)
伊藤 佐和さん(ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ社会貢献委員会 マネジャー)
[コーディネーター]
今田 克司 (特定非営利活動法人 日本NPOセンター 副代表理事)
開催報告:「0が0のままでいることの成果」――社会活動の評価の立ち位置とは?
学究、CSR、現場NPOという多角的な立場から、評価とNPOの活動について考えた分科会11。まず、社会事業大学の大島さんからソーシャルワークの「評価を通した可視化、支援環境開発」について解説いただきました。福祉分野においては当事者の声や生活感覚を制作に届けられるか、ミクロの実践をどう政策に反映していけるかが問われるといいます。大島さんが紹介した“EBP(効果に基づく実践プログラム)”は、支援モデルとして有効性があると証明がなされていても、なかなか体系的・効果的に現場へ適用されないギャップを解消するために出されたもの。効果的な支援モデルの社会的な合意形成や普及に対し、プログラム開発・評価は重要な意味を持つといいます。専門家の立場から、評価の具体的な方法論、支援効果を常に検証する倫理的側面についても解説いただきました。
次に、CSRの立場でNPOへの助成を経験してきた伊藤さんより、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループの社会貢献の仕組みを紹介いただきました。同社は社員がボランタリーに助成先のNPOに伴走する先駆的なスタイルを取っています。伊藤さんは、そうした仕組みを支えている立場。さまざまな助成プログラム実施してきた経験から、NPOへの伴走はコミュニーケーションを密にし、何に苦戦しているか見つけたり、団体自身が気づいていない魅力を引き出すなど、相互に学びあえる関係性の構築することの重要性を認識したそうです。現在は伴走にあたり、PDCAに加え、多様なプログラムを評価し、改善を加えていける体制を整備しているところということでした。
最後に、草の根で10代の若者の居場所づくりをしてきた石井さんから活動を紹介いただきました。NPOパノラマは、高校の図書館を「カフェ」にし、生徒や地域のボランティアの人々が、お互い安心できる空間でそれぞれの楽しみや悩みを語り合ったり、一緒にイベントをつくったりできるように活動しています。中退や引きこもりなどのリスクに晒されやすい複雑な家庭環境を抱える生徒たちが多く通う学校で、彼ら彼女らが地域や教師、仲間たちとつながりを持ちながら、自尊心や「文化資本」を積み上げていけるよう、学校を公共空間に作り直していくユニークな活動です。
パノラマは「成果指標委員会」を自分たちの手で組織し、プログラムの効果を測る試みに取り組む一方で、石井さんが指摘したのは「0から1ではなく、0が0のままでいることの成果」の重要性でした。分かりやすい就労実績や中退率の低下などの数字などからだけでは見えない、生徒たちの日々のこころの変化や、そのままでいられることを大切にしている姿勢が窺えるキーワードでした。
会場との質疑応答では「助成では資金提供者へ見せるための客観的評価が必要になるが、NPO自身の認識とギャップが出てきてしまう」という投げかけに対し、登壇者からは、大きなNPOに起こりやすい資金調達部門と現場スタッフの乖離の弊害が指摘されたほか、「お金を動かすデータと心を動かすデータがある。心を動かすデータは後から成果が出てくるのが常なので、どうしてもギャップが出てきてしまう。小さなNPOは、こうしたギャップを大きくしないように、横のつながりでまとまっていくことも大切」というコメントがありました。
地域の力を引き出す支援力 ~これからの中間支援の役割を考える~
地域づくりのための様々な施策や市民活動がある中で、個々の取り組みをつなぎ、後押しし、環境づくりを行うための原動力となるのが「中間支援」です。地域の力を引き出すための支援力について、NPO支援センターや社会福祉協議会などのアプローチに注目し、事例を通じて「地域を動かすコーディネーション」の更なる発展のための議論をします。
[スピーカー]
石原 達也さん(特定非営利活動法人 岡山NPOセンター 代表理事/特定非営利活動法人 みんなの集落研究所 代表執行役
/特定非営利活動法人 日本NPOセンター 理事)
青山 織衣さん(社会福祉法人 岸和田市社会福祉協議会)
[コーディネーター]
田尻 佳史 (特定非営利活動法人 日本NPOセンター 常務理事)
開催報告:地域の当事者を増やし、自然治癒力の高いまちに
分科会12のテーマは「地域の力を引き出す支援力」。参加者は会場いっぱいの55名、地域でNPO支援に携わる方が大半でした。一人目のゲストスピーカーの石原さんは、岡山NPOセンター代表理事だけでなく、みんなの集落研究所代表執行役など、さまざまな肩書をもっています。毎年2~3事業を一般施策化しているそうです。次々と事業を展開することを通じて目指すことは、「地域の当事者となる人を増やすこと。岡山を自分のまちだと思う人を増やしたい」。石原さんはその上で「NPOだけでなく、企業や学校、役場など、みんなで当事者による自然治癒力の高いまちをつくり、まちを社会課題解決型にしていきたい」と語りました。
具体的には、「NPO事務支援センター」や「NPO法人事務力検定」などを通じてNPOの基盤強化支援をしたり、地域課題を共有する機会をつくるために社会課題からNPOを調べられるウェブサイトやソーシャルライター養成講座などを行っています。さらに、「市民がもつ問題意識を、みんなで解決できる仕組みをつくることが大事」と考え、社会における参加の装置としてのコミュニティ財団もつくりました。地域自治の仕組みづくりという視点では、福祉や生業づくり、空き家など地域の課題の問題解決を自分たちでやっていけるように、集落による集落のためのシンクタンク「みんなの集落研究所」にも取り組んでいます。
一方、同じ中間支援でも、「地域福祉の推進」を掲げるのが社会福祉協議会です。もう一人のゲストスピーカーの青山さんは15年間、大阪の岸和田市社会福協議会に勤めています。「地域で暮らしているすべての人が安心して暮らせるように、行政だけでなくみんなでつくることを大事にしています」と青山さん。「高齢者・障害者だけでなく社会から孤立した人を地域につなぎなおす。広い視野を持って、自分たちのまちを自分たちでつくる、自治的な市民とつくることが地域福祉のミッションです」。ボランティアなど人をつなぐときに重視しているのは「アセスメント」。徹底的に聞き取りをして「動因」を引き出すための「誘因」をタイミングよく出すそうです。
青山さんは、社会福祉協議会の強みを、地縁組織もテーマ型の組織もごちゃまぜのコラボレーションを生むことができるコミュニティワークだとし、「社会は一部の”ヒーロー”だけでは変わりません。市民一人ひとりの意識が変わらないと課題は解決しない。サービスの消費者ではなく、どんな人にでも役割や居場所をつくっていくことに取り組んでいます」と話しました。一例として、地元のお祭り「車いすだと岸和田祭がみられない」というバリアフリーの課題への対応を挙げました。その解決のためには、閉鎖的な地縁型組織とテーマ型の障害者主体の団体をつなぐコーディネートが必要でした。最終的に、子どもたちとマップを作ったり、車いすの方と見物ツアーも行いました。青山さんは「コーディネーターは、アプローチしたい団体に近い間柄の人にブリッジパーソンになってもらうなど、合意形成の方法が違う関係者を結ぶ演出家のような役割です」とまとめました。
参加者からの質問で多かったのは「石原さんや青山さんがいなくてもできるか」。石原さんは「チームごとに分業してリーダーを立てていることと、マニュアル化の徹底をしています」と説明。担当者が自分のプロジェクトを団体内でプレゼンして、スタッフ全員にプロジェクトの価値を共有する試みもしているといいます。また青山さんは「若いスタッフは地域の人が育ててくれます。地域に一緒に入って、地域の人から、思いとやりたいことを出し切ってもらいます。そうすると若いスタッフも逃げられなくなり、応えたいという思いが出てきます。育てるというより育つ環境を作ることです」と述べました。
市民が課題の当事者になることを再考する
私たちは、具体的な社会の課題を知り、その当事者と出会うことで、自らも「当事者」になっていきます。市民の参加により、課題解決に関わろうとする人が増え、社会の課題を自分事とする人が増えていきます。
この分科会では、様々な生きにくさを抱える当事者と共に試行錯誤する活動をとりあげ、市民が課題の当事者になっていくために必要な考え方・姿勢、アクションを考えます。
[スピーカー]
工藤 瑞穂さん (特定非営利活動法人 soar 代表理事 / ウェブメディア「soar」編集長)
山口 由美子さん(不登校を考える親の会「ほっとケーキ」 代表)
[コーディネーター]
早瀬 昇さん (社会福祉法人 大阪ボランティア協会 常務理事/特定非営利活動法人 日本NPOセンター 理事)
開催報告:当事者として行動する
前半は、スピーカーのお二人から自らの実体験をふくめて、当事者になること、そのうえで行動した結果としての現在の活動について、お話いただきました。
不登校を考える親の会「ほっとケーキ」山口さんは、2000年の西鉄バスジャック事件の被害をうけたことがきっかけでした。この事件の犯人が不登校であったこととご自身のお子さんの経験が重なり合い、不登校・引きこもりの子どもたちとその親のための居場所が必要と考え、2003年から佐賀県佐賀市で活動を続けています。
soar工藤さんは、ご親族の病気がきっかけでした。病気や障害などの当事者がアクセスするのは不安を大きくする情報が中心であり、励まされる情報が不足していること、北海道浦河町べてるの家の取り組みから当事者が互いの経験を分かち合うことで生まれる励ましの価値を知り、2014年から東京を中心に様々な社会的マイノリティの方々への取材と情報発信の活動を続けています。
後半は参加者とスピーカーで「当事者になること」について意見交換を行いました。
「当事者は必ずしも行動を起こさなくてもいいのではないか」という意見に対しては、「情報発信はその瞬間に行動を起こしてもらうためのものではない。今は自分自身・家族・友人に関係なくても、いざ病気や障害など困難な状況になったときに、ここに行けば何かあるかもしれないと思い浮かべてもらうために存発信している」という工藤さんのお話がありました。
「当事者としてではなく支援者としてふるまってしまう」という意見については、居場所づくりの活動で子どもたちから同様の指摘をうけた山口さんから「自分を見つめることが必要。当事者の気持ちも大事であるが、自分がどうやってこの人と向き合っているのかが大事。目の前の相手を大事な人だって思えたときに寄り添える。その後に個別の支援のための専門性が必要になる」というお話がありました。
短い時間だったため、一人一人の考えを深く掘り下げることはできませんでしたが、当事者になることへの疑問・意見をもつことは、当事者になるための第一歩であり、山口さん、工藤さん、早瀬さんのお話によりその一歩を踏み出せる時間になりました。
支援における関係性を考える ~“してあげる”支援から“共にある”支援へ~
NPOをはじめとしたさまざまな領域で支援を行っている支援組織の“支援”に潜む問題点について立ち止まって考えます。“支援する側”(NPO)と “支援される側”(当事者)の関係性にある格差の問題、“してあげる” 支援によって当事者の自己決定力が奪われるという矛盾とどう向き合えば良いのでしょうか。このような問題をきちんと理解しつつ、寄り添い共にある“支援”のあり方、“市民的”専門性をもつ支援とは何なのかを一緒に考えていきましょう。
[スピーカー]
布田 剛さん(特定非営利活動法人 地星社 代表)
石黒 好美さん(フリーライター)
[コーディネーター]
髙山 弘毅さん(Nukiito(ぬきいと) 代表)
開催報告:「支援する」ことについて問い続ける
NPOをはじめとして、支援に潜む問題について、“支援する側”と“支援される側”の関係性や主体性の問題などについて考える分科会14では、コーディネーターの髙山さんから、「登壇者が答えを持っているわけではないので、参加者全員で考えるセッションにしたい」という呼びかけがあり、多くの対話が生まれました。
布田さんより、問題提起として、支援におけるパターナリズムの説明(強い立場にあるものが弱い立場の意思を問わず支援すること)や、~してあげる支援と~すべき支援の類型化、それによって奪われる主体性や支援する・される側の共依存的関係などについて説明がありました。そしてそれを乗り越えるための4段階(パターナリズムへの二段階の自覚、自己決定のサポートとしてのエンパワーメント、当事者性を持った支援者、他者の合理性への理解)についてそれぞれの説明を行ったあと、故加藤哲夫さんの言葉を引用して「問いかけ」の必要性を語りました。布田さんの発表を受けて、石黒さんからはいくつかの「問い」が出され、布田さんが仮の答えを出しつつ、髙山さんが参加者の意見や感想などを補足する形で進行しました。
1つ目は「主体性を生かす・引き出す“支援”とは?」。布田さんからは「どうしたいのか、どうなりたいかを投げかけることで主体性が生まれるのでは」という回答。参加者からは「shouldやmust(ねばならない)とは対照的にwillとcanはやりたい、できるになる。だた、それだけでは趣味や自己満足に終わる可能性があるため、その人の関心を引き出す機会を作って選択肢を増やすことが大事ではないか」「支援者は(視覚障害者が使う)“白杖”として、支援者としての主体性を少なくすることで被支援者の主体性が大きくなるのでは。ただし何事にも必ず功罪があるという意識が大事」といった発言がありました。石黒さんも、支援は引っ張り出すものではなく、待つことが必要ではないかと指摘。「他者の合理性の理解」は、その人に共感できなくても、理解はできるという意味で重要で、そのためにたくさんの「他人事」に耳を澄ますことが必要だと語りました。
2つ目の問いは「してあげる・しなさい、ではない“支援”とは?」。「社会課題に取り組む人・組織には潜在的な力があるということを信じ、敬意を持つことを前提に、答えを示さず問いかけ、相手に気づいてもらうことを心掛けている」と布田さんが回答すると、参加者からは、「黒子」にはなりきれず、どこかで「介入」していることの自覚が必要で、その代わり、対等性のあるチーム・仲間として寄り添ったり、主体形成の段階に応じて介入方法を考えているといった発言もありました。
3つ目の問い「してあげる・しなさい、でない支援が実現したとき、“支援者”は何をすればよいのか?」に対しては、布田さんはが「隣人的な関わり」と回答。「隣人は他人だが、気にかかる存在。支援者-被支援者がお互いに確認・応答をしていけば、仕事がなくなることはない」と語りました。それを踏まえ、参加者からは、「支援が必要でなくなったと思う人でも、転ぶこともある。支援が必要な時に、アクセスできる環境があり続けることに価値がある」「団体支援においても伴走支援や立ち止まる支援もある」という発言がありました。
★この分科会の続きは…★
市民セクター全国会議 ”その後どうなった会議”で議論します
第1回(2019年2月21日開催)は分科会14で扱ったテーマで開催します→https://www.jnpoc.ne.jp/?p=17059
地方議会との対話 ~政策協働していくためには~
NPOは地域社会にとって無くてはならない存在として認識され、NPOと行政の協働に対する理解も大きく進みました。一方で、これまでの協働施策は、執行責任者としての行政側との協働が中心でした。
今後、協働施策が条例制定や予算措置を伴うものであれば、初期段階から立法権を持つ地方議会との対話をすることも大切です。より発展的な政策協働のために、地方議会との協働の対話について考えます。
[スピーカー]
秋山 三枝子さん(新潟県議会 議員)
村田 惠子さん (特定非営利活動法人 さいたまNPOセンター 専務理事)
小林 芽里さん (特定非営利活動法人 浜松NPOネットワークセンター 事務局長)
[コーディネーター]
椎野 修平 (特定非営利活動法人 日本NPOセンター 特別研究員)
開催報告:議員さんたちは、私たち市民の代表です。
これまでNPOが考える協働の相手側は、地方自治体の首長であり担当部署や担当職員であったわけですが、日本では地方自治体の執行機関の長である首長と、意思決定をする議事機関の議会議員をそれぞれ住民が直接選挙で選ぶ二元代表制となっています。最近は、NPOが執行機関と協議をして進めてきた協働事業が、議事機関である議会により覆される、またはスムーズに運べなくなるという事例が見受けられるようになりました。どうやら「NPOと行政の協働」は、執行機関だけではなく、議会との協働も考える必要があるのではないかというのが、この分科会を設けた趣旨でした。
村田さんには、正に議会との関係でぎくしゃくした「さいたま市民活動センターの指定管理者に関する問題」の顛末とその後の市議会との関係について、小林さんには、2013年度から浜松市で行われている「議員と語ろうNPO円卓会議」について、秋山さんは、新潟県議会議員とNPO法人の理事という両方の立場から、議会側からみたNPOとNPO側からみた議会について、それぞれお話をいただきました。
3名のスピーカーからのプレゼンテーションの後、会場参加者との質疑と意見交換に移りました。「指定管理者制度によるNPO支援施設の運営は協働と考えるべきか」、「NPOとの対話に参加する議員の懸念点は何か、それを払拭し、より良い関係性をつくるための秘訣は何か」、「請願や陳情などを受けた後、それらを議会内部ではどのように扱っているのか」、「NPO側から見ていた議会と、議会側から見たNPOとの違いは何か」などの議論がなされました。参加者からは、「今回のフォーラムには、この分科会があるからこそ参加しました」、「めっちゃ面白かった、こういうテーマは今までどこでもやってないから」、「知らないことが多くて、とても刺激的な時間でした」、「地域で学生と議員との話し合いの場をつくっていますが、大いに考参になりました」など、主催側が予期していなかった反応もありました。
若者と地域をつくる「NPOインターンシップ」プログラム
日時:2日目11月23日:昼食休憩中
主催:NPOインターンシップラボ
協力:公益財団法人トヨタ財団
開催報告:
今回、トヨタ財団の協賛を受けて、NPOインターンシップラボによるランチセッションを2日目お昼に開催しました。
当日は定員を超える38名が参加、NPOインターンシップラボの活動紹介とNPOへインターンした池田さんと受け入れた地球市民ACT神奈川の伊吾田さんによるトークセッションを行いました。
池田さんからはインターンシップに参加したことで自信や繋がりを得られたというお話、伊吾田さんからは池田さんが入ったことで団体が活性化され、メンバーにも変化があったことがお話しされました。
「友達からの紹介だと参加しやすい」といったインターン希望者の視点、「希望者との間に入る仲介者(中間支援組織)がいたことで安心して受け入られた」といったインターン受け入れ先の視点が出されたことで、今後の新たな参加の取り組みとしてインターンシップを活用することを検討している参加者のヒントになるお話がいくつも挙げられる時間になりました。