日時:2018年10月29日(月)13:00~17:00(12:30開場)
主催:特定非営利活動法人日本NPOセンター、共催:Japan Society
フォーラム 協賛:米国大使館、協力:聖心女子大学グローバル共生研究所
プログラム 後援:独立行政法人国際交流基金 日米センター、Mitsubishi Corporation (Americas)、R&R Consulting、ANAホールディングス株式会社、United Airlines
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あいさつ │セッション1 │セッション2 │セッション3
動画 (YouTube):あいさつ | セッション1 | セッション2 | セッション3
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セッション3①:質疑応答
日米のイノベーターから参加者に聞いてみたいという質問を2つSli.doを使って会場の参加者にオンラインで答えてもらった。以下がその質問と上位から順に並び変えた回答結果:
Q1:あなたが農漁村に引っ越すとしたら、以下のうちどの理由がもっとも大きいですか?(二つまで選択可) (n=40)
- 生活の質(空気、食べ物、警官、自然環境)75%
- 経済面での生活保障 35%
- 文化的生活の充実 23%
- 子どもの教育環境 15%
- 家族や友人がいること 13%
- 日本の田舎を支えたいという気持ち 13%
Q2:日本の地域を支えるために何をしていますか?(複数選択可)(n=30)
- その地域のモノを買う 60%
- しばしば訪問する 50%
- その他 27%
- 自治体やNPOに寄付する(ふるさと納税含む)20%
日米のイノベーター全員が壇上に上がり、Sli.doに上がった会場参加者からの質問を幾つかピックアップ、登壇者が回答することで、議論を深めた。
質問①:サバンナ、ジョナサンはスモールビジネスや農業の起業支援をしているが、所得が低い地域や市場規模が小さい地域で、経済的に自立していけるのか?米国では何か資金的な補助があるのか?
サバンナ:食や経済開発の役割は、大きなコミュニティの戦略の一部という位置づけにある。ウェストバージニアのコミュニティには、まずツーリズムや大学があり、人々を留めたり、お金を使ってもらったり、何度も来てもらうために、食はツールになっている。そしてコミュニティにもっと関与してもらい、最終的には移住につなげる。食の生産自体を経済開発のツールにするは難しいが、食を作り、体験や物語とその接点、そして今日話したような公共医療サービスや教育などが絡まることで、起業家や経済成長の可能性が出てくる。ただ戦略はすべての地域で違ってくる。距離があるところでは、「食べる通信」のような遠隔にいる人たちとのパートナーシップによるプログラムになってくる。
技術的支援では、CDFI(=コミュニティ開発金融機関(community development financial institutions(CDFI))を使ったプログラムを行っている。地域の起業家がなかなか融資を受けられない中で、事業計画の作成段階から、会計の手伝いや補完的な援助をしている。
ジョナサン:アメリカにはこういった助成金があるわけではない。CDFIからの借り入れを行っている。地域の起業家は一般の銀行よりも低金利でお金を借りることができるので、早い時期の起業家にとっては有益だ。
もう一つ、特にアメリカ中西部の課題は、ブロードバンドへのアクセス。これはインターネット商取引への扉を開くもので、これによってこれまでとは違った経済の原動力になり得るという意味で大きな可能性につながる。
今田:日本でもCDFIの研究も多く、リソースもあるので興味がある人は見てもらいたい。
質問②:日本ではスローフードや有機野菜と既製品と価格差があるため、高所得者が主な購買層。消費や交流も進んでいるが、残念ながら当面大きな変化は起きないと思う。アメリカでも同様か。その中でも中・低所得者向けの購買支援や価格格差を是正する政策はあるか。
リチャード:食の運動は、考え方をどう変えていくかということ。食の楽しみはすべての人に提供すべきもの。良い食べ物がエリートのためだけのものであってはいけない。我々はまだ食のシステムを再開発する入口に立っており、スキルも初期段階。有機野菜・スローフードも先駆者が作っており、まだ人数も限定的で、臨界質量に達していないので、競争が起きていないし、より良いビジネスを作りあげるところまで至っていない。5年、10年先に変わってくる可能性がある。
ただ今しないといけないこともある。ジョナサンが話した農業法などの仲介、地域が地域開発のために作った政策、低所得層が作った農作物購入に対する助成など。ファーマーズマーケットでもそのようなものが得られる。どう購入するかの仕方を学んだり、購入判断を促すことを学ぶ良い機会になる。どこで人々の行動パターンが変わるのか、より新鮮でスローな食べ物を買いやすい価格で提供されるためには戦略が必要になる。
江守:消費者の価値観で言うと、低所得者に良い食や経験をどう提供するかは社会全体で考えていかなくてはいけない。一方で中間層の人たちが食べ物にお金を払うことを惜しんでいることが非常に大きな問題だと思う。スーパーで128円と98円のものがあると、やっぱり98円のものを買ってしまったり、すぐ野菜の値段が高いだとか、オーガニックのものが高いと言うが、日本の家庭における生鮮食品の支出の割合はわずか数パーセントでしかない。そこにもっとお金を出していかないと、いずれ食べられなくなるのは自分たちだということを多くの人が理解してもらうという仕事を、リチャードや私のような者がしていかなくてはいけない。
質問③
今田:サバンナ、テイラーがすでに発表で触れたが、高齢者の役割についてどう思うか。日本では特に高齢化の問題に直面しているが、どのように健康な高齢者を巻き込んで、そこからどういった価値を生みだしていけば良いか。
テイラー:今年そのテーマにフォーカスして取り組んだ。世界保健機関(WHO)には高齢者に友好的なコミュニティネットワークがあって、複数の国で取り組みを行っている。アメリカのパートナーは全米退職者協会(AARP)で、5年間のプログラムを持っている。1年目に地域のニーズの分析を行い、次の4年でそのニーズに対する取り組みを行う。私自身クリントン郡のプランナーとして関わっており、歩行者のアクセス、手ごろな価格な住宅提供、アメリカの地方で特に発達していない公共交通の問題の改善に取り組んでいる。我々の取り組みにはやるべきことがたくさん残っているが、1つの解決策として世代間の交流がある。アメリカでは高齢者住宅が大きな問題だが、優先順位は高くない。高齢者と都市部の若者世代の交流を促進することで総合的に解決できることがあるのではないか。
サバンナ:関連するが、フードハブの取り組みで高齢者の介護施設で未処理の製品のニーズがあった。アメリカでは医療危機が言われている。我々は病気の予防の部分にお金を投じていないが、これは改善できるはず。これにしっかり取り組み、このことを人々に浸透させることが大事。次の領域は医療業界との協働だと思う。
林:高齢者の巻き込みはまだお祭りを一緒にやるとか、公民館のプロジェクトを一緒にやるとかだが、先日ある集会で地域のリーダーたちと集落の未来を話し合った。データでは10年後この集落なくなってしまう、どう一緒にやっていくかの議論になった。最初は口だけ適当なことを言ってと怒られたが、一緒にいた仲間が本気でやるなら、移住につながるようなプロジェクトを試行錯誤しながらやっていこうという話になった。まず大学生が宿泊しに来るとか、祭りを手伝いにくるだとか、集落のロゴを作成して商品に貼って皆で売るだとかの取り組みを行っている。どうインパクトを作っていくかは模索している。
質問④
今田:少し誤解があるが、「地方に対する理由なき同情」に関して、地方を「助けたい」という気持ちは「同情」(や哀れみ)と捉えられてしまうのか、についての質問がきているが、関原さんには、都市部にいる若者が農村・漁村といった地域をどう見ていて、どう見て欲しいか。アメリカ側からはコニーからネブラスカでも田舎だと言うと下に見られるという話があったが、都会の人たちにどう見て欲しいか。
関原:行政施策は、この数十年、農山村は病気で、その治療のために薬がいるのだ、という考え方でほとんどの農村振興策が練られてきた。RMOは本来、地域の未来を作るために必要な機能として提示されているにもかかわらず、総務省は明瞭な定義をしていない。日本中見に行くが、私が「ホスピス型」と呼んでいる、コミュニティがゆるやかに痛みを伴わずに消えていく手段として補助金がバラまかれているケースがほとんど。広域合併以降のまちづくり協議会が、あたかも街を作れるように言われながら、実は「ホスピス型」の主役になったという現状がある。「理由なき同情」について、私は「助けてやる」とう考え方は、同情だと思っている。助けてやることもないし、助けてもらうこともない。自分が自分を助けるために田舎に行けば良い。「誰かのために」という動機を作った途端、その動機は歪む。田舎に参加するのであれば、徹頭徹尾「私が充足するために」と言い切ってもらう方がスッキリする。動機を「誰かのために」にした時に動機が歪んでしまうので、私はそれに用心しましょうと言っている。
コニー:私からの提案は、都市と地域を分断ではなく、コラボレーションするという気持ちが大事だということ。ポジティブな考え方や可能性を見つける心構えが重要だ。農村未来研究所では、企業や起業家が我々の思いもつかないソリューションを地域に提供している。NPOや企業の協働や、大学とコミュニティの協働は理解を深めていく上で非常に大事。誰が何を選択するのではなく、お互いの知見や体験から学び合うという姿勢が重要だと思う。
今田:関係性の築き方という話で、我々、あなたたち、または都市、地方を分けることに意味がないのではないかという話になった。
質問⑤
田村さんに対して、行政や地元の主(ぬし)のような方との関係は良好か、という質問が来ている。田村さんは地元で目立っているが、この地域の人たちとうまくやっていけているのか、やっているのであればどうしているのか、という意図の質問だと思うが。
田村:行政とは良好な関係性を築いている。本来行政がやるべき移住者誘致・支援など我々が代わりにやっていることに最大限の応援をしてくれている。もちろんそれには時間がかかった。地元の有力者で応援してくれる人も、よく思っていない人もいる。難しい問題だが、すべての人に理解してもらうのは、そもそも難しい。地域を我々の取り組みに巻き込んで、応援してくれる地元の人を作っていく。そうすると批判している人の友人が僕らを応援するということが起きる。10人の起業家が入ってくると、それがいろいろな場所で起こってきて、だんだん良い方向に向いていく。起業家も地域に住んで地域活動にも参加するので、それがだんだん認められていくということだと思う。
セッション3②:ネクスト・ステップ
最後に、各登壇者から今日の感想や、これからやりたいことをフリップに書いてもらった。日米のイノベーター達から挙げられた「点から面」「相互依存」「市民社会」といった示唆に富むキーワードからは、地域がこれから目指すべき姿が浮かび上がった。
林:プレゼンテーションのまとめになるが「自分の生きたいコミュニティ(町)を自分で創る」。去年の渡米時に、それぞれのプロジェクトの話や悩みや課題を共有し、今回アメリカのチームに来てもらった。アメリカの現場を見たし、日本の現場も見てもらったので、いろいろな議論ができた。地域をどうするには結論はない。いろいろな観点があるが、僕は自分の生きたいコミュニティを自分で創っていくアプローチを大事にしたいと思っている。
リチャード:どんなコミュニティにも違いではなく、似ているところが見つけられる。「私たちは一つの食のコミュニティ」であるということ。我々は共に学び合える。一緒に成長し、食に対する共有の愛情を持てば、新しい経済を生むことができると思う。
テイラー:今回日本の地域を回って気づいたのが、地域コミュニティとの「関係性」の重要さ。人とコミュニティ、土地、環境、歴史、文化など、はその地域が持っている重要な要素。皆さんが住んでいる場所と他の場所の関係性を作り上げることの重要性もある。こういった交流は、こういった国際交流を含めて地域の活性化について重要な出来事だと思う。
江守:「相互理解→NEXT STAGE」。お互いが何をやり、どんな課題を持って、良い取り組みをしていることはよく分かった。次のステージに行きたい。僕たち自身がすでにコミュニティだし、ネットワークだと思う。僕たちは掛け算ができる。お互いのやっていることや知識を組み合わせることで、日米両国や世界に価値を広げていけると思っている。個人的にはアメリカの皆の地域でTaberu Journalが発行できたらうれしい。
コニー:私のキーワードは「未来 ☺ 」。スマイルマークは、今後も地域の明るい未来をどう作っていくかという重要な議論を続けていきたいから。私が学んだのは女性のエンパワーメント、男女の平等。女性のエンパワーメントは、地方だけでなく、各国の強化に必要だと思う。この意味では日米でやるべきことはたくさんある。両国が世界的なリーダーであり続け、さらなる発展を実現するためには、女性にもっと力を与え、エンパワーすることが必要なのではないか。
田村:私は「視点」と書いた。皆さんも今日感じたと思うが、同じ課題を見ていても、日米で捉え方や視点が違うということは面白いこと。この違いはとても良いことだと思う。我々が取り組んでいる課題はそんなに簡単な話ではない。打ち手を打っていくには、非常にイノベーティブなことをしていかないといけない。そのためには色々な視点を持つ必要がある。これからも意見交換をしていきたいと思う。
ジョナサン:私のキーワードは「市民社会」。相互理解を促進し、地域での政治・経済状況を肯定的にするためには、市民社会をきっちり考えないといけない。我々が選ぶ政治家がこの問題をどう考えているか、また明るい将来を考えるためには何が必要なのか、を政治家が理解する必要がある。そのためには我々が一緒に取り組んでいく必要がある。
サバンナ:キーワードは「相互依存」。一つは訪日して都市と地方の相互依存を新しい視点で学ぶことができた。都市は地方を必要としていて、地方は都市を必要としている。それは国レベルでも同じ。私たちが自分たちの活動に活かしていくための視点を相互依存で得ていると思う。規模を拡大して、大量生産する潮流があるが、地球の裏側(日本)に来て、量より質の大切さを学んだ。この運動をもっとグローバルなものにしていきたい。
関原:「点から面」。自分たちがどれだけ頑張っても、それが一個だけだと、それは奇特な事例でしかない。ただ、例えば彼ら(日米のイノベーター)と連動したり、日本でも本当に地域を運営できるものが三か所(三点)あると面になる。面ができれば行政がそれに対して制度と条例をつくる。ここまで行かないと今はNPO側への経済的、労的負担が非常に重い。アメリカの皆さんと連動できることで、面になれる、一人ではないという感じがした。たいへん感謝している。
今回、欠席となった佐藤さんを含め、この2年間事業をやってきた仲間たちに今一度拍手が送られた。最後に大橋正明(聖心女子大学文学部 人間関係学科 教授/グローバル共生研究所 所長、日本NPOセンター理事)より閉会の挨拶があり、本フォーラムを終了した。
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