市民セクター全国会議 2021 11月26日(金)・27日(土)開催

開催報告:セッション2

●日時:11月27日(2日目)13:30-15:00
●企画運営:市民セクター全国会議2021宮城・仙台実行委員会

●登壇者

●聞き手

東北発 市民セクターのスクラップ&ビルド⁉ 「つながりのデザイン」

東日本大震災で被害の大きさから、誰もが命と暮らしの在り方に正面から向き合うことになり、顕在化した目の前の社会課題解決に自分事として取り組まざるを得ない状況となりました。その過程で様々な市民力を見せつけられたこととともに、課題解決に際し、日ごろのつながりと助け合いの大切さを痛感しました。しかし被災地では、住み慣れた故郷の喪失、従来の地域コミュニティの崩壊などから、災害から命を守ること、様々な困難を抱えた方の社会的孤立の防止など様々な課題に向き合い、NPOや行政などが新たなコミュニティづくりや活性化、自治組織の立ち上げ支援などに奮闘してきました。震災から10年経ち、それらコミュニティの担い手不足や負担増大により、つながりの維持が困難な状況です。今回はパネリストの2事例を通じ、つながりを捉え直したいと思います。

パネリスト1人目の新井さんが副代表理事を務める「つながりデザインセンター」では2011年4月下旬に仙台市内で「あすと長町仮設住宅」が開設された当初から、独居高齢者を中心にコミュニティ形成支援を続けています。あすと長町地区の災害公営住宅集会所で開催している「あすと食堂」は現在まで100回近くを開催し、一人でも利用しやすいようカウンターを設けるなどの工夫をしています。集会所では他にもイベントが開催されていますが、さらに利用を促進して「みんなの居場所」とすることを目指し、ブックレットやパンフレットを作成しています。一方、集会所を活用した個々の活動は固定客化してつながりが広がらないことが課題となっています。それは主催者と参加者、参加者相互の相性によりコミュニケーションが限定されてしまっていることに要因があります。なかには静かな活動を好む方もいますので、そうしたことにも配慮しながらコミュニティづくりを展開しています。集会所は公営住宅の外に貸し出していないケースが一般的ですが、むしろ外部に広く開いて、地域の多様な団体が利用することで多様な場が生成され、それによって多様なつながりが生み出されることを期待しています。

2人目、2012年から活動している「つながる湾プロジェクト」の大沼さんは塩竃市出身のデザイナーです。プロジェクトの舞台は松島湾とその沿岸地域。沿岸部には現在6つの自治体があります。湾から陸地を見つめ直すことで、自治体の区切りに左右されずそれぞれの地域の文化的つながりを大切にしています。活動は松島湾を広域文化圏として「再発見」し「味わう」インプット、それらの体験を「共有」し「表現」することのアウトプット部分からなります。東日本大震災をきっかけに地域が好きになる人を増やすため、様々なテーマで企画作りに取り組んでいます。

お二人の活動事例紹介の後、「つながる」視点をテーマにパネリストを交えたトークが行われました。

まず、松村さんから当たり前だと思っている様々な境界線を取り払ってつながりを考えていくことが、今後の持続可能な地域運営を考えるうえで大切で、そのような視点で地域とかかわる中で起こった変化について質問がありました。

新井さんからは、町内会や自治会という狭い地域内でつながりを考えていくことに限界を感じていて、現代の日常的なコミュニティは地域外を含めた多様な距離感のネットワークと捉える必要があるという意見が出ました。また、公営住宅の外の人が集会所を利用することをよく思わない方がいて、これは共同性とともに排他性が生み出される、いわゆる縄張り意識というもので、コミュニティの問題の一つであると指摘します。

大沼さんからは同様の課題に関連し、「つながる湾プロジェクト」での市民教授活動について説明頂きました。この活動では農家、漁師の方へ講師を打診しアドバイスを求めています。例えば長く漁師を続けてこられた方は、日常の営みで続けてきたことが地域にとって意義あることと感じ、プロジェクトの参加者たちが魅力に気付き、地域に関心を持ち伝えていく当事者を増やすきっかけになっています。

次に松村さんが、「つながる湾プロジェクト」の活動で強いリーダーや組織のまとめ役がいるか質問したところ、やりたいことを実現したいプロジェクト毎に分かれているとの回答をいただきました。

新井さんからは常に次世代の担い手が求められている状況下では逆に持続性が下がる傾向があり、そもそも地域組織に求められることが何かという問題になっています。地域の祭、アイデンティティを伴う行事などでは合意できないこともあるので、ある程度義務的な役割としてのコミュニティ開発のほうがスムーズではとの結論に行き着くとの意見でした。一部の人だけが地域を背負うことになっては他の多くが無責任になりがちなので、多様な関わり合いがある方が現実的ともいえます。

大沼さんも商工会や町内会など日常的に様々な人に会ってつながりを継続している。自分のプロジェクト以外にも、地域の活動を任せてもらうなど、既存の組織の仕組みにかかわることも必要との見方をされていました。

参加者からは、新たに生まれた住民主体の活動について質問がありました。

新井さんから集会所で利用者が使える無線LAN(Wi-Fi)インターネットサービスを導入したところ、それまで来なかったジャンルの人も来るようになったというお話がありました。集会所は学校へ行きにくい子のための公共施設として有効だそうです。大人の「一人飲み」と比較できないかもしれませんが、一人に対し周囲の環境作りも必要ではないかとのお話でした。特に子どもの学習支援については地域外の人のサポートで満足している方もいるほか、高齢者のスマートフォン習得にも学生の協力が得られるので学生側からの希望は別として有効とのことお話でした。

次に異なる自治体で構成された自治体間の「壁」について質問があり、大沼さんからは1自治体ずつ連絡の取れる職員を探し、年月を掛けて連携ができるよう対応しているとのお話がありました。

お二人から2事例に共通するのは従来の活動を批判するのではなく、視点を変えてとらえなおすことが必要だということでした。「古い」、「新しい」よりも理念に基づき、従来の価値観にとらわれず現実を踏まえて新たに目標を考えていくことが大切ではないかとの意見がありました。

強いリーダー待望論については、地域全体のリーダーが必要な状況にはありませんが、任意の個別の活動においては話し合いで平準化されるよりもリーダー主導で個性のある活動が展開される方が、地域全体として多様性が高まるため、その意味でのリーダー論には賛成と新井さんからコメントがありました。大沼さんからは団体毎に適当なレベルのミッションを目指す「トライアル・アンド・エラー(試行錯誤)」方式で、組織を改編する仕組みもあるのではとの意見がありました。

最後のまとめでは、大沼さんから「楽しくないと持続しない」、新井さんからは組織が大きくなり、NPO本来の新鮮さが薄らぎ財源を気にしながら運営しなければならず、悩みどころとのご発言をいただき閉会しました。

(報告:大牧一成さん)